菅沼美代子さんの第5詩集『手』が届いた。菅沼さんは静岡市在住の詩人。
日常とか物体とか、あえて言えばそうした分類で括ってしまいがちな身の周り。しかし、その根源を私たち
はどのくらい見極め、または自身の感性として受け止めているのだろうか。菅沼さんの作品を読んでいるうち
にそんなことを思った。菅沼さんの世界観が色々な事象を通して読み手の私に伝わってくる。もしかして、後
日読み返してみれば、また少し違った世界が現れるのかもしれない。静かにゆっくりとした気持で読みたい詩
集である。
鍵
パタンとドアを閉めれば/鍵を掛けた気になる/わたしたちの家//明けの明星に/見送られ そっと/
先陣を切って出て行く/父はいちばんの働き者//母は窓という窓を閉め/栓という栓を捻り/鍵という
鍵を掛けても/まだ 忘れ物がないか振り返る//カレンダーの上を/気ままに滑るように/綱渡りす
る栗鼠のような娘は/子宮を抱えたまま合鍵を操る//鍵穴隠しをして籠もる息子は/パソコンとケータ
イがあれば/夢と現のあわいを泳ぐように暮らしている//出て行き 戻って来る/わたしたちの家/疾
うに さようならをした/祖父は 星になり笑って瞬き/祖母は 月になり笑って見守る//鍵は無くて
も 音も無く/入ってきては やさしく囁き/ゆっくり肯いては 出ていく//ただいまとおかえりを繰
り返し/自分の鍵を見つけるまで/わたしたちの家みんなの家