静岡市住の詩人佐藤光江(さとう・みつえ)さんから第5詩集『菜の花の海の』を拝受。
佐藤さんは日本詩人クラブ、日本現代詩人会各会員。詩誌「楷の木」同人。
この詩集に収められている「戸口」と言う作品を読んでいるとき、不意に若い頃に私淑してい
た画家のことが思い出された。<自分らしさとは何だろうか。自分らしさという言葉を出すこと
はすでに自分らしさの「らしさ」を知っていることだよな>と語り、<自分のことを知ろうとし
ても、なぜかいつまでたってもその先へ到達できないのは不思議なんだよね。勿論、一般論だけ
ど>・・・とも言っていた。半世紀も前のことだが。
それはさておき、佐藤さんの「戸口」は次。
「戸口」
息をきって/たどり着いた/此処/戸口はピシャリと閉ざされ/気配ひとつない//何を追い
かけてきたか/何に駆りたてられてきたか//自分らしく/生きることを/願いながら/履き
間違えたか/それとも/選んだか/ようやく気づいた/誰かの靴を履くことの/心地悪さ//
いつも/腰の辺りにぶら提げていた/不格好に膨れた堪忍袋/捉われの紐を解こうと/手をか
ければ/思いがけず/たわいなく緩んだ//待っていたのだろうか/戸口は軋みながら/ゆっ
くりと開いた/其処に/朝の陽をまとう/ひとがた
佐藤さんの詩世界の底流にあるのは、ご自身の在り方を希求する姿勢であろうか。ずっと走り
続けてきて、ふと止まっては置き去りにしてきた自分を確認しようとする。さりげなく自身を見
つめながら振り返ってみるのだが、その後も前も霞だっている。そのような詩世界を描いている
ように感じた。当然ながら、詩の世界であってそれらが作者個人のこととは限らない。
<あとがき>から、印象的な佐藤さんの詩との繋がりを引用しておきたい。
~(略)詩と歩んだ長い時間を振り返れば、越し方のせいだろうか自己肯定感に乏しい性分は、
今さら変えようもなく、私にとっての詩は一歩踏み出すために生まれるものだ。/~(略)何よ
りも自分に一番正直に向き合えるのが詩作り。/手放してはならない存在。/生き抜くための
杖。/鉛筆を握ることは必然なのだ。
発 行 2023年5月10日
著 者 佐藤光江(静岡市)
発行所 土曜美術社出版販売
頒 価 2,000円
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