「一生」
ラストシーンのないお芝居は
いつまでも続くのでしょうか
無意味に叫んだり 喚(わめ)きちらしたり
なにしろ幕が下りないのですから
それはそれはつらいことだと思います
いつかは消えていく
いつかは忘れ去られる
ほんの一欠片(ひとかけら)の思い出が
誰かの心に残れば
それはそれで満足です
近頃 こんな事を考えるのも
それなりに充分生きて来たからかも
知れません
感謝の気持ちだけが丸い渦になって
心の中程で回っています
東京都小平市住の詩人、市野みちさんから第6詩集となる『風は笑って』をご恵投いただいた。
紹介した「一生」は当詩集の帯文にも使われている作品。
自身の生き方を振り返りながら、誰かに語りかけるように、そして自身に語り聞かせるように、
平易な言葉で奥の深さを表現している。
<それなりに充分生きて来たからかも/知れません>と表出しつつ、収録作品「教えて」では、
<どうにもしっくりしない人生です(以下略)/人はこの世に生まれ落ちた時から/心の片すみ
に/違和感を覚えつつ/年齢を重ねているのかも知れません>と吐露する揺れに共感した。
市野さんの生き方がみえてくる詩句を、一部拾ってみた。
・<感謝の気持ちだけが丸い渦になって/心の中程で回っています>(「一生」)
・<春に椿の花が咲く/あたり前が嬉しい/いつも通りがいとおしい>(「椿」)
・<太陽は/沈む寸前でも/こんなにまぶしく輝いている>(「夕日」)
・<横切る風の/さわやかな笑い声が聞こえた/ほらね!>(「風」)
・<何のために/今まで汲汲と生きてきたのだろう/周りの人達に合わせて/
ただ回っていただけ>(「春の日に」)
・<私は/これからも地べたを這いつくばって/生きて行くよ/
探し物をしながら>(「これからも」)
著 者 市野みち(いちの みち)
発行日 2024年5月5日
発行所 土曜美術社出版販売
定 価 2,200円(本体2,000円+税)
著者略歴 1944年1月生まれ
「マロニエ」同人
日本現代詩人会、日本詩人クラブ 各会員
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