小川英晴さんから新詩集『蜜月』が届いた。
平成最後の年、三月十三日の深夜、私の最愛の妻和美が息をひきとる。
享年五十六歳、早すぎる死であった。
亡くなるおよそ二年前、腹膜播種が発覚したころ、
和美は私との残された時間を
「いま私は人生で最も幸せな時間をすごしているの、ひでちゃんと二人だけの蜜月をすごしているの」
と言ってくれた。(以下略。序文より抜粋/画像帯文参照)
詩集のタイトルは、ここから来ていると思われる。
時間と空間を共有してきた伴侶が他界するという衝撃と悲しみと喪失感は、
経験者の一人としてよくわかるだけに、読み進めていくのがつらかった。
当詩集での作品は妻へとも自身へともつかない語りかけ、経過、事実を表す形をとっている。
文字を追えば追うほど悲しみが伝わってきて、なかなか読み進めない。こうしたことは久しい。
こんなにもピュアに悲しみを表せることを羨ましく思った・・という言い方は間違っているかも知れないが、
悲しみが本当に伝わってくるのだ。言葉も美しい。だから詩になっている。
理屈ではない。愛情も感謝も悲しみも寂しさも苦しさも、作品にすべて籠められ、
そうした気持ちが本当のコトバになって表されていると感じた。
「二人だけの蜜月をすごしている」と言った奥さんのコトバもやはり真意であり、読み手に強く残る。
序詩「旅立つ日」
ちりしくさくらのかわりに
ちりしくゆきのうえでしにたいとあなたはいった
ちりしくさくらのみちをゆくのではなく
はげしくふりしきるゆきのなかを
ひとりきえてゆきたいと
しずまるだいちに
ゆきはひっそりふりつもり
あなたのすがたばかりかこころまでもがいてつくしんや
あおあおとすきとおるすいしょうきゅうをぬけだして
あなたはあえかなひかりをはなって
そのまま
ふりしきるゆきのなかふかく
ひとりたびだってゆかれた
澄んだ気持ちが美しい情景と言葉・文字となって見事に表現されている。
「ちりしく」「あえか」「ゆかれた」という言葉に悲しみと尊厳さを深く感じる。
小川さんは1951年生まれ。詩誌「ぼくだけがひとり」を19歳で創刊。
第一詩集『予感の猟場』を刊行以来、詩集や評論など多くの著書を出している。
半世紀も前、私は『詩芸術』という商業詩誌へ投稿・発表していたことがあった。
泥臭い気負った私の詩とは異なり、同年の小川さんは理知的な詩や評論を同誌へ発表していたのを記憶する。
発行日 2021年2月3日
著 者 小川英晴(おがわ ひではる)・東京都
発行所 株式会社架空社(東京都練馬区関町北1-12-9)
定 価 2,800円+税
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます