『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

翻訳  毎日毎日三日月1

2015-01-08 00:23:38 | 翻訳

ある韓国語講座で翻訳している作品です。 素人のつたない翻訳ですが、作品が面白いのでアップしました。

                         

毎日毎日三日月

                                                  ユン・ソンヒ(著者)

                                             1973年京畿道水原生まれ

 三女は不幸なことが起こるたびに、そのすべてを、姉達の古いパンティーのせいにした。誰かが自分の学生かばんに死んだ蛙を入れておいた時も。級長が牛乳給食費を紛失すると、担任教師が三女を指差した時も。初めて自分を好きになってくれた男に会ったのに、その男が交通事故で半身不随になった時も、すべて姉達が残した古いパンティーのせいだと三女は思った。二十五年後、南大門市場で長女と再会した時三女はこう言った。「パンツも洗わないで出て行って。」双子だった姉達は三女が九歳になった年に家出をした。二人の姉がバスターミナルをうろうろしていたその時、三女は鉄棒から落下して顎を痛めた。血が止まらなかった。三女はワンピースが汚れるかと案じて、素早くノートを破って傷になった所にくっつけた。そうして家へ走った。姉達がとっても痛いの?と言いながら赤い薬を塗ってくれるのを期待して。しかし姉達は家にいなかった。代わりに茹でた素麺がざる一杯に盛られていた。三女はキムチを刻んで混ぜ麺を作った。胡麻油と胡麻をたっぷり入れた。長姉が知れば酷い目に遭うのだが。三女は麺を食べながら思った。長女は何でも浪費することを好まなかった。三日間延びた麺を食べながら、三女は姉がすぐに戻ってきて自分を懲らしめてくれるように望んだ。それで麺を丸めるたびに胡麻油をかけた。大きいのをするたびに香しい匂いがした。麺を全部食べた後、三女は箸でざるの間にこびりついた素麺を剥ぎ取りながら泣いた。そして二度と泣かないと決心した。南大門市場の真ん中で太刀魚の煮付けと白いご飯を長女に投げながら三女は九歳で立てた決心を思い出した。「ちょっとこの傷跡を見て。」三女は二十五年ぶりに会った姉に顎の下にある傷跡を見せた。姉達を待つ間傷口にくっついた紙は、血と一緒に固まった。担任教師が三女を発見した時、傷口は紙がくっついたまま癒えていっていた。養護教師が三女の顎に消毒薬を一瓶注ぎ込んだが、三女は後片付けもせずに家を出た姉達をののしりながら、歯を食いしばった。「我慢強いこと。」養護教師はピンセットで紙切れを取りながら言った。先生の言葉のように我慢強く生きようと努力したが、思い通りにはならなかった。それで姉と再会する前まで四回ぐらい騙された。すべてのことに無関心だった父は二人の娘が消えると、一日中眠り始めた。それで末娘が永遠に九歳ではないという事実を忘れた。三女は姉達が捨てていった黄ばんだパンティーを煮沸した。パンティーのゴムひもを取り替える時には、姉達がなぜ家を出たのかも何となくわかるように思った。三女は穴のあいたパンティーを穿くごとに一生誰も自分を愛してくれないだろうという予感に囚われた。そしてそれを証明しようというように、三女は誰も愛さなかった。誰も愛さなかったために未来も信じなかったし、未来を信じなくなって怖れを知らない子供になった。後日、三姉妹すり団を結成した時姉達は三女の度胸の良さに驚いた。姉達の記憶の中にあった三女は、蟻を見ても泣いていた九歳の少女だった。姉達は三女がなぜそんなに変わったのかわからなかった。そのすべての原因が自分達の残した黄ばんだパンティーのせいだったということが。

2  

三女はスタンド一つだけを持って姉達の家に引っ越した。スタンドは黴が生えて、しょっちゅう紙を張替えなければならない半地下の部屋に釣り合わない唯一の物だった。「こんな偶然があるのかね。」妹と再会した後で長女が同じことを言い続けた。長女と三女は昨年一年間南大門市場で十回以上も出くわしていたことに気づかなかった。ある雨の降る日、長女の傘に落ちた雨の雫が三女の肩を濡らしたことも。三女はスタンドを今のソファの横に置いていった。「私は一度もソファがある居間で暮らしたことがない。」太刀魚の煮付けを配達する前まで三女は八箇所の食堂で仕事をしたが、半地下の部屋を抜け出すことは簡単ではなかった。その話を聞いた長女が涙を流しながら言った。「これからあんたがしたいようにして。」三女はスタンドの灯を点けたり消したりした。そうして自分が本当にしたいことが何なのか考えてみた。そうすると学期の初めごとに「将来の希望を書いて出せ」と言った担任教師達の顔が浮かんで消えた。三女の額に拳骨を食わせて「将来の希望がこれは何だ?」と言ったある教師の言葉を思い出した。三女は高校を卒業するまで将来の希望欄に「未定」と記入した。それは姉妹の父がよく使った言葉だった。十三歳で故郷を離れてから二十年の間父は一日に五時間以上寝たことがなかった。砂袋を運んでいたちびが煉瓦工場の社長になるまで、どれくらいたくさんのことに耐えなければならなかったかと、父は三女を生んでから寝床から起き上がることのできない母に話したものだった。皆が去って末娘だけ残るようになるや、父は昔の寝不足を取り返そうとするように、ただうとうとと眠った。そして眠りから目覚めると庭にしゃがみこんで、末っ子にこう言った。「お父さんの夢はこんなものではなかった。」三女は木の寝台に腹ばいになって宿題をしながら返事をした。「どうして?」 「わかっていて何かするのかい? 全部終わったことだが」。父はどぶに向かって吸殻を投げた。「まったくつまらん。お前も前もって決めるな。未定だよ。未定。」三女は宿題をしていたノートの片隅に未定と単語を記しておいた。そして長女が使っていた国語辞典をざっと見て未定がどんな意味かを探した。三女は隣の人が「今日は何するの?」と尋ねると「未定。」と応える子供になった。「したいこと…。」三女は独り言のように呟いた。それから突然電話機を取ってどこかへ電話をかけた。「一ヶ月休みをいただきたいんです。」三女は食堂の社長に言った。社長がどこか悪いのか尋ねると三女は寝たいと応えた。「仕事をする人は多い。」電話機の向こうで社長が言った。「じゃ、辞めます。」三女は電話を切ってソファに斜めに横たわった。「一ヶ月ずっと寝るの。それを本当にしてみたかった。」三女は長女に胡麻油がたっぷり入った混ぜ麺を食べたいと言った。その言葉が終わるや否や、長女はスーパーマーケットへ駆けていき素麺を買った。姉が料理する姿を見ていた三女が言った。「今晩は私達三人が一部屋で寝よう。幼い頃そうしていたように。」三女は姉達が憎くなるたびに、こう慰めたりしたものだった。「でもそのお陰で一人部屋を使うことができるじゃない。」その時はその後二十五年の間一人部屋を使うようになるだろうとは想像もできなかった。「一緒に寝るのは後にしよう。小さい姉さんが帰ってくるから。」「どこへ行ったの?」「リュックを背負った旅行。」麺はまずかった。キムチは塩辛すぎて麺は茹ですぎて伸びていた。「ごめん。実は料理をしないから。ほとんど出前をとるから。」三女は混ぜ麺を食べながらこう思った。この家はチョンセ(一定の金額を預けて不動産を借りる貸借契約)なのかなと。混ぜ麺を残らず食べてから、三番目はソファに横たわって本当に一ケ月眠ってばかりいた。次女が呼び鈴を押すまで。

 次女は三女を抱きしめて声を出して泣いた。次女は分かれた家族を探す番組を喜んで見ていたが、家族を見つけた大部分の人は互いに抱き合って慟哭したものだ。「末っ子に会ったら私もあのようにしなくちゃ!」 次女はいつもそう思った。三女を抱いて泣く間、次女はカメラが自分達の姿を撮っているような錯覚に陥った。次女はとても幼い頃から誰かが自分の後ろ姿を見つめているような気分に襲われたものだ。次女は誰かの視線を意識しながら生きることが、どんなことなのかよく知っているようで、それで生活記録部の将来の希望欄に俳優と記した。姉妹達は知らなかったが、ひょっとすると彼女たちには俳優になる要素が隠れていたのかもしれない。一度も顔を見ることのできなかった母方の祖父が旅回りの劇団の無名俳優だから。俳優になることはできなかったが、次女は財布を盗むたびに、今演技中だと自分で暗示をかけたものだ。その筋では次女は「頭の後ろの目」というニックネームを持つようになった。三女は姉の涙を大げさに感じた。三女の記憶にある姉は喉ちんこまで見えるほどきゃっきゃと笑っていた少女だ。姉妹達が暮らしていた家の庭には石蹴りの線が描かれていた。長女が生まれた時、父は家を修理しながら庭のセメントが固まる前に、石蹴りができるように描いた。三女は父を憎むたびに庭で一人石蹴りをして遊んだ。三女が覚えている次女の最後の姿もそんな日中の一こまだった。一人で石蹴りをしている時、次女は鳳仙花を手の爪に載せてはつつましくビニールで括っていた。残ったら私にもしてちょうだい。三女は言った。次女は返事をしなかった。そうして急に「この子、あんた線踏んだ。」と大声で叫んだ。三女の記憶が正しければ…姉達が去るまさに前日だった。「小さい姉さんが私に言った最後の言葉が何かわかる? 線踏んだ。それよ。」三女はようやく次女の腕をはずして言った。そして長女に向かってこう言った。「大きい姉さんの最後の言葉は悲しい。髪を一人で結いなさい、全く。」家出の決心をした長女は学校に遅れたという妹の頭を結ってやらなかった。最後に妹が好きな編み上げを潰してやりたかったが、母がいない家の長女として大きい姉さんは冷静なタイプだ。三姉妹は末っ子の願いどおり布団を広げて並んで横たわった。姉達に会ったら話すことがとても多いと思ったけれど、三女は何も思い出さなかった。それでこう言った。「この家はチョンセなの?」「違うよ。」長女が応えた。「じゃ月払い。」「違う。」次女が応えた。三女はどんなに古い家でも部屋が三つもあるアパートを買うことが、それほど簡単ではないことぐらいわかっていた。「じゃ、今から本当にしたいことをしてもいいの?」「何でも聞いてあげる。」次女が言った。そうすると長女が三女のほうに体を向けた。「全部聞いてあげられないし、まず十だけ言ってみて。あっそうだ。混ぜ麺と一緒に寝ることも入るから、八つ残った。」三女は天井の染みを眺めながら、八つの願いを考えてみた。長女がかすかに鼾をかいた。次女は布団を股の間に挟んで寝る癖があった。九歳以後誰かと一緒に寝たことのない三女はその晩一睡もできなかった。それで朝になるや姉達にこう言った。「私も自分の部屋が必要よ。」次女が「七つ」と大声で叫んだ。

               [続]                    

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