毎日毎日三日月2
ユン・ソンヒ(著者)
チョンジュ大哲学科とソウル芸大文芸創作科卒業
部屋には窓辺に向かって椅子が一つ置かれていた。三つの部屋の中で一番小さい部屋だが、冬には一番暖かい部屋だと長女が言った。「あんたは寒さに弱いんじゃない。」三女は「真冬でも下着を着ないほど寒さに強いけれど、それをまだ覚えているでしょう?」と答えてやった。しかしおかしいことに、この嘘が本当になったのだろう。その年の冬三女は重症の風邪にかかるようになる。そしてその風邪が治った後でも背中に寒気を感じる気配が消えず、冬には酷い寒さに苦しむようになる。次女が椅子に座って窓の外を眺めていたが、「しばらく一人になりたい。」と言った。「この部屋は私だけの部屋だった。」次女はその部屋を「泣く部屋」と呼んだが、一月に一回ずつその部屋に入って泣いたりした。本当は長女も次女にわからないようにその部屋を使用したことがあった。「お姉さん、交通事故で半身不随になったボーイフレンドを持ったことがある?」三女が言った。次女が首を横に振った。「五年間貯めたお金の詐欺に遭ったことは?」やはり次女が首を横に振った。「お客が投げた匙に当たったことは?」長女と次女が同時に首を横に振った。「今からここは私の部屋よ。」次女は「水に溶けたちり紙を見ると悲しいかだって、バス停に一人で座っている人を見ると胸が痛むかだって」と言った。次女の初恋は自分が他人を笑わせられると錯覚している男だった。コメディアンの物まねをしょっちゅうしても、まるで似ていなかった。しかし次女は一生懸命笑ってやった。自分のように無理に笑ってやる女が彼にいることを知らないまま。男が別れようと言ったときに、次女はカフェにいる人々が皆見つめるほど大きい声で言った。「率直に言おうか? あんたは全く笑わせない。」家に帰る途中で次女は自分のズボンの下の部分を取って物乞いをする乞食に会った。誕生日に男が買ってくれたズボンだった。次女は乞食の腿をまっすぐ蹴飛ばした。そして唾を吐いた。自分がなぜそんな行動をしたのか、時々次女は自問したりした。しかしどんな答えも見つけることはできなかった。ただ、乞食に向かって唾を吐く瞬間、自分が始めて男にぞんざいな言葉を使ったということがはっきりと浮かび上がった。「泣く部屋」が必要とされるのはこの事件以後だった。次女の話を聞いた三女は、熱心にお金を稼いで部屋が四つある家を買ってやるといった。「だからここは出てください。私の部屋だから。」三女が二人の姉の背を強く押した。敷居に立って次女が言った。「その男は有名なコメディアンになった。名前を教えてやろうか?」三女はさほど好奇心が強くない子供だった。秘密の話にまるで関心がなかったので、女子高時代に友達と付き合うことができなかった。「別に知りたくない。お姉ちゃん、今わかったんだから。出て行ってください。」三女の四番目の願いは居間に巨大な水槽を設置することだった。長女と次女は何でも育てるのは苦手だった。しかし名前も覚えるのも難しい、泳ぐたびに尾を優雅に揺らす魚を買った。「金魚の餌はあんたがやらなきゃ。」長女は三女に念を押した。三女が次の願いを言うのはそれから二ヵ月も経ってからだった。その間魚が数匹死んで、結局魚の世話をする人は三女から次女に替った。長女は膝を枕にして横たわる三女の耳垢をとっていた。右の耳は大きい姉ちゃんが。左の耳は二番目のお姉ちゃんが。それが三女の五番目の願いだった。耳垢をとりながら言った。「あんたが生まれたときのことよ。私達は庭で陣取りしていたの。」耳かきが深々と入っていったのか三女は顔をしかめた。「お姉ちゃん達が私を憎んだのがわかる。」長女と次女が末っ子の妹を憎んだのは本当だった。「ところでね。お姉ちゃん達はどうして働かないの?」右の耳が終わった三女が今度は次女の膝を枕にして横たわった。長女が次女に耳かき渡しながら右目をウィンクした。次女が三女の耳たぶを掴んで耳の穴を覗き込んだ。奥まった所に耳垢が見えた。次女が巨大な耳垢を取り出し、三女の掌に
のせた。「わあ、ものすごく大きいね。」三女が言った。次女は口をまん丸にして耳の穴に風を吹き込んだ。「何で?」三女がしきりに体を動かした。「お姉ちゃん、やはり言おうかな。」次女が言った。そうすると長女が空咳を一回すると口を開いた。
3
三女は長女が話を終えるまでずっと次女の膝を枕にして横たわっていた。「驚いた?」「うん。」率直に三女は姉達がすりだということよりは、その仕事で家を買ったということに驚嘆した。「前にリュックサック旅行に行ったのは?」三女が次女に尋ねた。「運が悪くて捕まっていて。少し行って来た。」三女はどうして豆腐を食べなかったか気がかりだと言った。すると長女がその日の夕食のおかずに豆腐の煮物があったと教えてくれた。三女は起き上がって居間の灯を消した。向かいのアパートの居間がぼんやり見えた。ランニングシャツを着た男達が花札をしていた。三女はスタンドを点けた。そして姉達にこんな話を聞かせた。「私は今まで泥棒を四回した。初めて盗んだのは隣の家のフライパンだった。」級長が牛乳給食費をなくすと、担任の先生が三女を前に呼び出した。「私じゃありません。」三女が言った。その言葉を聞いた先生は「何がありませんだい? 私がお前に何を尋ねようとしているか、どうしてわかるんだ?」と言った。先生は三女を授業が終わるまで廊下に立たせた。その晩、三女は隣の家にこっそり忍び込んで油で汚れたフライパンを持ち出した。「それで先生を殺そうと思った。」しかし三女はそうできなかった。代わりに、先生の下宿に向かってフライパンを投げた。窓が割れる音がした。「それなりの完全犯罪のために犯行道具を盗むとは。素晴らしい。」長女が感嘆した。「その先生を訪ねて復讐してやろうか?」次女が言った。二番目に盗んだのは靴だった。「私の誕生日だった。自分のために素敵な夕食を買いたかったの。」三女は焼肉屋に行って二人前を注文した。「でもどうして焼肉屋は一人前を売らないのだろう。」お金が惜しくて残らず食べようとしたけれど、お腹が一杯でとても全部食べられなかった。履物を履こうとしたとき、三女は自分の古臭い短靴の横に、きちんと立てられたハイヒールを見た。「ただ私の足に合うか気がかりで、一度履いてみた。」履物はぴたりと合った。シンデレラの話が自然に浮かんでくるほど。三女はその靴を履いてカウンターに行って精算した。そしてそのまま家へ帰った。「家に来てから見ると安物の靴だったよ。足に水脹れができてすぐに捨てた。」三番目の盗みは花壇の花木だった。それを盗むために植木鉢とスコップまで買わなければならなかったけれど、花木は植え替えてからいくらもしないうちに枯れてしまった。それで三女は枯れた花木を元々あった所にもう一度植え替えた。「それで最後に盗んだのがこのスタンドよ。」ドラマを見ると、どの家でもベッドの枕元にスタンドがあった。三女はそのスタンドを点けて本を読めば、自分の未来が少しは良くなるだろうと思った。「盗もうというのではなく、スタンドを買いに行ったの。どんなに呼んでも店員が出てこなかっただけ。」三女は「お願いします。」と呼んだ。そして五回呼んでる間に店員が出てこなければ、入り口に立っているスタンドを持って行こうと思った。「お願いします。お願いします。お願いします。」最後の一回を目前にして三女は靴をもう一度履き直した。「これ、お願いします。」今回は少し長く呼んでみた。そして目に見える一番大きいスタンドを持ってゆっくり外に出た。走ってはいけない。三女は自然に呪文をかけた。一区画を歩いた後、三女はタクシーに乗り込んだ。三女はスタンドを家に持っていってから、書店で本を一冊買った。毎晩読もうと努力したけれど、一章もめくる前に眠ってしまった。引越ししたときに三女はその本を部屋の真ん中に投げ捨ててきた。姉達はあんなに大きい物を盗むことが出来たということに驚愕した。「驚くわ。私達は財布より大きいものは盗んだことが一度もない。」次女が言った。「ひょっとしたら…私達三人が一緒なら庭付きの家に引っ越すことができるかも。」三女は二人の姉の手を握って言った。
「駄目。」長女と次女が同時に手を振った。彼らが父親から習ったことがあるとすればこんな点だった。人生は自分が望む時に止まらない。そのことを知らないために、父親はずっと眠り続けたのだと三人は思った。ある日長女は一日中同じブランドの財布を盗んだことがあった。偶然としては驚くべきことだが、更に驚くべきことは、その財布がすべて偽物だったことだ。長女が稼いだお金の半分以上を貯蓄し始めたのはその日からだった。「私達がこれを続けるのはいつか止めなければならないかも知れないしね。」長女が言った。「それに、あんたは幼い頃から運動神経がなくて駄目。徒競走もびりだったのに。」三女が小学校一年の時に姉達は海苔巻きを作って運動会を見に来たことがあった。「その後で一等になったこともあった。」姉達は三女の言葉を信じなかったが、中学校二年の時三女は百メートル徒競争を一等で駆けこんで来たことがあった。徒競争を始める前、スタンドに座っている男子生徒が三女に向かってこう言ったからだ。「おい、洟垂れ。」三女は歯を食いしばって走った。一等でゴールを通過してから自分をからかった男子生徒に飛び掛って、彼の頬を叩いた。「私にも長所はある。誰よりも目端がきくんだよ。」三女が言った。姉達が妹を憎んだおかげで、三女は誰よりも自分を好きな人と嫌いな人を直ちに見分けることができるようになった。三女は馴染みのない所に行くと、自然と瞳が素早く回った。それに、八か所の食堂の社長も三女が目端の利く人になるうえに一役買った。「本当にだめなら、いいわ。じゃ。これが六つ目の願いよ。」それで三姉妹は一つのチームになった。三女は姉達が双子という点を積極的に活用しなければならないと言った。長女の意見は違った。「捕まっても一人で捕まらないと。それが私達が別々に動かないとならない理由よ。」「保証するな。家族同士はなおさら。」父親は子供達をすわらせて言った。長女は他のことはわからなくても、父親のその言葉だけは守って生きようと努力した。「私達が一緒に仕事をするなら、互いに保証し合うのと何が違うの?」三女は長姉の言葉がどんな意味なのか理解できなかった。「じゃ、仕方ない。七番目の願いをするしかない。」長女は主に南大門市場で活動した。毎週月曜日には休んだ。二十万ウォン以上のお金を稼ぐ日は、お店を巡ってきれいなカップを一つずつ買ったりした。長女が集めたカップは百以上で、そのカップを保管するために飾る場所を新たに作らなければならなかった。次女の活動の舞台は風呂屋と結婚式場だった。「平日は風呂屋に行って週末は式場に行くの。」次女は三女にソウル市にある式場の目録を見せてやった。式場の名前の横に日取りが書き込まれてあった。「一回行った所は少なくとも六ヵ月過ぎてから行かなきゃ。CCTVに撮られるんだよ。」次女はビュッフェが好きだった。特にLAカルビを。「それを食べると間違いなくLAに行ったような気分よ。」三女は必ず成功して毎日LAカルビが食べられるようにしてあげると言った。三女は囮にになった。長女は第一攻撃手。次女は第二攻撃手兼守備手。「守備手は何をするの?」「だから万一大きいお姉ちゃんが見つかった時に、小さいお姉ちゃんが現れて混乱させるのよ。」三女は姉達に仕事の時に同じ服を着てと言った。誰が誰だかわからないように。次女は長女と服の趣味が全く違ったために、その言葉に納得できないと言った。「それで私達がどうしてあんたの言葉を聞かなければならないの。私達は二十年の経験をもつベテランよ。」長女の言葉に三女が答えた。「私はお姉ちゃん達よりもっと勉強したじゃない。お姉ちゃん達は中卒。私は高卒よ。」