著者 : 朝井まかて
生年 : 1959年
出版年 : 2013年
出版社 : (株)講談社
本書の受賞歴 : 第150回直木賞 第3回本屋が選ぶ時代小説大賞
☆☆☆感想☆☆
樋口一葉の師匠にあたる萩の舎を主催していた中島歌子の生涯を、中島歌子が綴った自伝を弟子の三宅花圃と養女の中川澄が読んでいくという展開になっている。裕福な江戸の商家に生まれた中島歌子が水戸藩士に恋をして嫁いだのは、桜田門外の変の直後。夫は天狗党に属し、水戸藩は天狗党と諸生党の内紛が激烈な中、中島歌子の運命も翻弄されていく。前半は甘い恋物語で、後半は凄惨な内紛と復讐が描かれている。徳川慶喜を頼って京都に向かった天狗党を慶喜は見殺しにしたと言われているが、鳥羽伏見の敗戦後、江戸城に戻った慶喜は兄の水戸藩主を江戸城に留め置き、自ら水戸藩の諸生党の重臣を罷免した。それにより天狗党の生き残りは凱旋し諸生党への復讐を開始した。この一連の内紛によって2千人も水戸藩は死者を出している。水戸藩の内ゲバ状態は筆舌に尽くし難いほど過酷だ。イデオロギー論争はイスラム原理主義もそうだけれど、是と非しかない二元論に武器での決着が当然とされる時代の雰囲気の中では敵と認定したものには容赦しない。甘い恋物語かと思ったら重く苦しい時代小説だった。
諸生党の首魁、市川三左衛門の辞世の歌:君ゆゑに捨つる命は惜しまねど 忠が不忠になるぞ悲しき
天狗党の首魁、藤田小四郎の辞世の歌:かねてよりおもひそめにし真心を けふ大君につげてうれしき
中島歌子の和歌:君にこそ恋しきふしは習ひつれ さらば忘るることもをしへよ