著者 : 和田竜
生年 : 1969年
出身地 : 大阪生まれ 広島育ち
出版年 : 2013年
出版社 : (株)新潮社
☆☆感想☆☆☆
16世紀後半の一向宗大坂本願寺と織田信長の戦いに参加した、水軍同士の戦いを描いている。瀬戸内海を勢力下に抑える村上水軍と、堺など大阪南部、泉州を根拠地にした真鍋水軍が主力となって敵味方に分かれて戦う。本書では水軍とは呼ばず海賊と呼んでいる。村上海賊、真鍋海賊。村上海賊は能島の村上武吉の娘、景を中心に回り、真鍋海賊は真鍋七五三兵衛(しめのひょうえ)が相対する構図になっている。男勝りの景は大坂本願寺に助勢に向かう安芸(広島県)の一向宗門徒20名を助けたことから、彼らを大坂本願寺まで送って行くことになる。海賊が同乗している船の通行は保証されるという海賊の定法を無視して、織田家の武将が一向宗門徒を捕縛しようとしたことから、景は織田家の武将を切ってしまう。その申し開きのために、大坂本願寺を囲む織田方の天王寺砦に行った景は、織田信長から咎めなしの保証を受ける。大坂本願寺と海を結ぶ木津砦に入った一向宗門徒は織田方の天王寺砦からの攻撃を受ける。陥落寸前に大坂本願寺から万を超す兵が繰り出され、鉄砲傭兵集団雑賀党とその首領鈴木孫市によって形勢は逆転する。その形勢を再度逆転させたのは織田信長の登場である。景は偶然鈴木孫市を助け、能島に帰る。村上海賊は能島、因島、来島に分かれているが、毛利家に従って大坂本願寺に10万石の兵糧を届けることになる。しかし毛利家の智将小早川隆景は、上杉謙信が立てば大坂本願寺に兵糧を届けるが、立たなければ撤収せよと命令を下す。景は飢えに苦しむ一向宗の門徒を見殺しにできないと決断する。
登場人物を漫画的に描いている。特に景は醜女で直情径行、七五三兵衛も全く同じような性格だ。しかし、景は人のために命を賭ける一向宗門徒に感銘を受けるが、後者や他の武士は家の存続のため、自分たちのために戦っている。
冷徹な計算を破る直情径行な一途さをグロテスクな闘いで描いている。映像では見たくない。本だから読めるけれど。
真鍋海賊は大阪弁で敬語を使わないし、会話が明るく面白い。
「まあ、しゃあないの。門徒ちゅうたかてしょうもない廻船やし、能島村上の上乗りつきじゃ。太田の阿呆が上乗りの定法破ったちゅうんやったら通すほかないやろ」
しかし、人の命を何だと思っているのかと思うほど、芋でも切るように敵も味方も切りまくる。