翻訳 朴ワンソの「裸木」39<o:p></o:p>
124頁4行目~125頁最終行<o:p></o:p>
私はぼんやり路面電車の停留所に立っていた。電車はなかなか来てくれなかったけれど、待っている人々が増えることもなかった。火の神の前まででも乗って行きたいほど疲れていた。今日はほとんど2倍もドルを稼いだので、私はすっかりくたびれていた。<o:p></o:p>
ふいに私は、疲れている部分が足ではなく口であることに気付いた。中学1年の英語の教科書程度の数少ない言葉の繰り返しで、夕方には舌がほとんど痙攣を起こすほどだった。<o:p></o:p>
「How beautiful she is?」<o:p></o:p>
「Can I help you?」<o:p></o:p>
そうしてみると、私は今日一日母語を一度も話せないようだ。なにしろ今日は忙しく、ミスキも泰秀も訪ねてこないし、オクヒドさんには私が言葉を掛ける暇がなかったし。だしぬけに私は母語を話したくなった。さっきから電車を待っているのか、ただぼんやりしているのかわからない中年の男の横に行って静かに呟いた。<o:p></o:p>
「あなたの奥さんは本当に美しいですね?」<o:p></o:p>
「彼女の目は何色ですか?」<o:p></o:p>
運よくその言葉はとても小さい呟きに終わった。どんなに小さくても今日口から出した最初の母語、しかしそれは母語だっただけで、決して私の言葉ではなかった。私の感じるもの、私の意志が盛り込まれた言葉を話さなくては、耐えられないほどだった。言葉ではなく、叫びでも身振りでも本当に自分を込めたかった。<o:p></o:p>
中年の男が堂々と向こうへ行ってしまった。彼以外は、電車も来ず、電車を待つ人が増えも減りもしなかった。私はそわそわしていて、いつの間にか歩きはじめた。<o:p></o:p>
米軍相手の土産物屋で少年がなぜか黒人を捕まえて、必死の努力をしていた。私は立ち止まって彼の悲しい英語を聞いた。<o:p></o:p>
「Hellow, please come come look look. We have many many very nice present」<o:p></o:p>
「I don’t have mony. You present ok?」<o:p></o:p>
少年は熱心につりあげてある真鍮の灰皿や煙草台を元の位置にどんと置くと、<o:p></o:p>
「犬の子」<o:p></o:p>
痛快な母語だ。たちまち体の中がさっぱりした私は、ちびににっこり微笑して尋ねた。<o:p></o:p>
「今日はたくさん売れたの? ちびちゃん」<o:p></o:p>
これが今日最初に私の意志がこもった母語だったのだ。私は、ちびの返事は待たずにぶらぶら、いろいろな店頭を覗き込んだ。<o:p></o:p>
竹籠、煙草台、背負子、竹のざる、煩わしい刺繍が前後にあるジャンパー、色のあせた粗悪な生地のパジャマ、笠をかぶったおじいさん、肥桶をかつぐ農民の木彫…私たちのものだからと言って展示している物が、外国人、いや私にはかえって馴染みがなく情がわかない。売る物の枯渇、それでも売らなくては延命できない状態、そんなことがちょうど貧乏の状態なのだ。私はこれらの店頭を通り過ぎて、再び暗い曲がり角に立った。<o:p></o:p>
そして力一杯駆けた。怖いと言う言い訳もまた一つの急ぐ理由になったのだ。私は玩具店のチンパンジーに会いたかった。その愉快な友達がウイスキーを注いで飲んでまた飲んでという狂的な暴飲から、次第に動作が遅くなって虚脱に戻る姿の前にいたかった。<o:p></o:p>
相変わらず露店の玩具店は込んで見物人はほとんど大人だった。玩具が好きな大人が私だけではないので、少し安心した。<o:p></o:p>
山と積まれた自動車、汽車、人形、飛行機、銃刀などをすべて排除して、ただお客の寵愛を独占しているチンパンジーという奴は、主人のためにお金を稼いでいるわけでもない。だからずうずうしい奴だ。
- 続 -
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