090125リフキン、竹内均
人類の信じてきた世界観は、いまや機能しなくなったことに注目する必要がある。現代の世界観とは機械的世界観であり、アイザック・ニュートンによって用意されたものである。これが産業革命を可能にし、精神生活よりも物質的繁栄に眼目を置く機械化万能、工業化万能の近代文明への道を決定した。人類はこの道を400年以上も永遠の真実であるかのごとく信じ、猛烈なスピードで突進し続けた。今日、われわれの価値意識を規定して機械的世界観を廃棄することを拒み、恐れ、あるいは考えたくないという状況に覆われている。
しかしここに来て1つの冷徹な真理によってわれわれはその行く手を阻まれた。それがエントロピーの法則である。この法則が私たちに突きつけるのは人類の利用可能なエネルギーは有限であるということであり、進歩とかスピードとか効率とかを最優先するニュートン以来の合理的世界観の限界を見ることとなった。すなわちわれわれが固く信じ、価値を置いてきたこの世界観を否応なしに廃棄せざるを得ない状況が生まれている。地球温暖化に表象される環境問題は生命活動のみならず、経済活動すなわち近代文明の活動を阻害する要因として発展してきたし、これまで強固であった機械と火の文明の価値意識を粉砕しつつある。それだけには留まらない。資源の略奪的移動を通じて形成されてきた欧米を中心とする北半球の工業文明は、常に軍事力を背景としたものであった。既に各地で証明されつつあるように、軍事力はその維持コストをまかなうだけの効果を発揮しなくなってきている。国際協調と言われる関係の中に、経済、文化、教育、環境、医療、人種や宗教上の対立がワンパッケジでからみつき、軍事力では黙らせない人々の結合エネルギーを生みだしている。
われわれの脳の中に牢固として存在している意識作用は、物質を所有することが最大の価値であるということであった。人間の成功は、アメリカンドリームに見られるような物質面のものがすべてであった。すべての社会活動は、基軸として市場主義を原理とし、その他のイデオロギーは、表面化することがなく、顧みられることはなかった。今日の企業、なかんずく大企業が直面している困難は、経営の原動力を構成している環境財、人材、価値観の占有が許されなくなっていることである。それらは金銭で左右されるものではなく、いわんや軍事力で獲得されるものでもなくなった。
われわれの価値意識の心底には、金銭的な動機が100パーセントを占めていた。自己実現もその意味は認識されつつも、おおかたは市場主義を通じ、その先を展望することで得られるものだというところに留まっている。それはゆがんだ像が用意されているにすぎず、人間本来のニーズとの潜在的な乖離はかえって大きなものになってきている。
市場主義、金銭万能主義は、地球環境の容量が許容する限りにおいて、その影響力を維持出来るが、今日、エントロピーの法則という絶対至上の法則が身近に認識されるようになって、それらは相対化し、人々の価値意識、従って行動規範が市場原理から、生活原理・生命原理の方にパラダイム転換を徐々に起こし始めている。かくて21世紀は、機械と火の文明に最終的に終わらせ、生命と水の世紀が到来することまで視野を広げることが要求されるようになった。
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