あさおきて、かおをあらって、ごはんをたべて、
それからがっこうへいきました……
そこでもう、ただ鉛筆を舐めるばかり。その先へは、ちっとも進めない。
楽しかったことや、辛かったことも書いたらいい、と先生。
やすみじかんに、こうていで、やきゅうをしました……
それは楽しかったことだ。しかし文章にしてみると、すこしも楽しくない。
一日のあったことを、ありのままに書いたらいい、と先生。
ありのままに書くとは、どう書くことなんだろう。楽しかったことを、楽しかったこととして書くとは、どう書くことなんだろう。
そもそも、なぜ文章など書かなければならないのだろうか。
ぼくは書くことが苦手だ。というか、文章というものが書けない。
ありのままを言葉にする。本当にあると思えるものを言葉にする。
でも言葉は、ありのままや本当にあると思えるものを、そのままなぞってはくれない。
あの小学生のときの疑問は、いまも解決されないままで、悔しい思いはつづく。
そこで本棚から、かび臭くなった新潮文庫を引っぱり出す。
『井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室』
作文の秘訣を一言でいえば、
「自分にしか書けないことを、だれにでもわかる文章で書くということだけなんですね」と。
吉里吉里小学校の井上先生は、やさしい言葉で難しいことを教えてくれる。
ハイ解りましたと頷いてみたが、作文の宿題はいつまでも終わらない。