風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

運動会の、空へ

2010年04月28日 | 詩集「風の記憶」
Tabi2


せんせい
わたしバツイチです
減点ばかりでごめんなさい


ひとり残されて
校庭で逆立ちの練習をしている子
あれは、きみだろうか


きれいなアナウンスの声に
嫉妬してしまうわたし
富士山ってそんなに高いのか
3776m、ミナナロウでしたね、せんせい
でも、だれもなれやしない


5段組みのてっぺんで
輝いてる子
あれはぜったいに
きみではない


きみは高所恐怖症で運動オンチ
逆立ちもできないし側転もできない
富士山のずっとずっとすそ野の
地べたに伏せている子らのひとり
土だらけになっている
そんな子らのひとり


さがしてもさがしても見つからない
きみの四季はただ塗りつぶされてしまう
きみの大地は灰色のクレヨン
きみの空も灰色のクレヨン
もくもくと、もくもくと入道雲の
きみはもくもくのひとつ
ゆうだちの雨粒のひとつ
そよぐ稲穂のひとつ
はらはらと落葉のひとつ
こんこんと雪のひとつ
そして春、桜の花びらのひとつ


きみはどこにいるんだ


終わる終わる
きみを見つけられないままで
運動会が終わる


きみはわたしを避ける
きみはすぐに目をそらすから好きだ
きみの名前が好きだ
ノートにきみの名前をいっぱい書いて
いっぱいキスをする


せんせい、知ってますか
キスって宿題の味がしたんですよ
それと
わたし逆立ちもできます
バク転もできます


逆立ちをしたら
キミが見えるだろうか
キミのいない校庭をもちあげて
万国旗の空へ落ちてゆくんだ
青い波紋がひろがって
だんだん視界が薄くなる
だれもいない空
いつかの空
どこに隠れたんだ
きみは


(2004)


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