【櫻井よしこ 麻生首相に申す】名誉挽回に死力尽くせ 2009.8.13 02:39
(一部抜粋)
今月末の総選挙に向けた自民・民主両党の主張は日本における政治の矜持(きょうじ)の喪失と保守勢力の凋落(ちょうらく)を痛感させる。日本はいま、歴史を重ねて蓄えてきたすべての力を使い切ろうとしているかのようだ。
日本のすべての力は、歴史のなかで先人たちの苦労によって培われてきた。にもかかわらず、麻生太郎首相も鳩山由紀夫民主党代表も、あまりにも日本の土台を構築する価値観や歴史に無神経である。両党首の下の自覚なき政治で、先人の残した諸々の価値観がいまや消し去られてしまいそうだ。
8月15日、麻生首相も鳩山代表も靖国神社には参拝しないらしい。首相の言い分は「国家のために尊い命を捧(ささ)げた人たちを政争の具にするのは間違っている。(靖国神社は)政治やマスコミの騒ぎから最も遠くにおかれてしかるべきもの。もっと静かに祈る場所だ」というものだ。
本気であろうか。靖国神社参拝は長年「政争の具」にされてきた。中国が靖国参拝を日本抑圧の切り札とし、切り札を突きつけられた日本側が砕け続けてきた。政争の具にしないためには、まずこの構図を打ち破り、靖国参拝を巡る状況を正常化することだ。日本の首相が「国家のために尊い命を捧げた人たち」を慰霊するのに、外国政府に言われてとりやめるという異常からの脱出が正常化への第一歩だと気づき、熱い心をもって全力で臨まなければならない。そのこともなしに参拝を避けるとしたら、それは、無気力の極みである。異常を是として、異常を継続することにほかならない。
吉田茂以来、不幸にも戦後日本に根を張った政治風土の最も深刻な欠陥は、この種の、異常を正常と思い込む価値観の倒錯である。総選挙を前に国民に訴えるべきは、返済不要の奨学金や農家への戸別補償の効用ではなく、靖国参拝に象徴される日本人の心の問題である。
だが、首相が国民に語りかけていることのほとんどが金銭、物質に関する事柄でしかない。国家の基本的な問題点、たとえば安全保障、増大する中国の脅威、激変する米国外交こそを訴えるべき時、バラ撒(ま)きから透視される有権者への迎合こそ見苦しい。首相は日本の最も深刻な欠陥である安全保障の不備に関して、集団的自衛権さえも打ち出せていない。
占領下、吉田は日本の再軍備に抵抗し、ついにまともな軍隊を作らせずして引退した。米国のダレス特使に対しては、「日本を広い意味で米国にインコーポレート(合体)してほしい」とさえ述べ、米国の庇護(ひご)の下での経済優先を貫いた。吉田は引退後、軍事をないがしろにしたことを悔いたが、冷徹に言えば、それは繰り言にすぎない。物事をなすべき地位にあるとき、政治家は国益だけを考えて全力で事をなさなければならない。それなくしては、辞した後の言葉は虚(うつ)ろである。
麻生首相は、就任直後の2008年9月、ニューヨークで集団的自衛権について「基本的に解釈を変えるべきものだ」と語った。
◇ だが、首相は集団的自衛権の解釈を変更するどころか、その件に触れることもなく、選挙に臨もうとしている。首相は祖父と同じ間違いを犯し、後世に憂いを残すのか。
そのうえ、「静かに祈る場所」と言って、靖国神社には近づかないのか。静かな祈りは口実か。「保守」の首相のそんな祈りを英霊たちは喜びはしないだろう。
首相以上に、鳩山代表の靖国についての考え方は奇妙である。氏は8月11日、党本部で、「(靖国神社に)参拝するつもりはない」、民主党内閣が誕生する場合、「閣僚にも(参拝を)自粛するよう言いたい」と明言した。 「村山談話」に関しては、「尊重し、談話の思いを十分に受けた政権にする」と強調した。先の大戦について、日本が間違っていたとし、ひたすら「心からのお詫び」を強調する「談話の思い」を鳩山氏は「十分に尊重」するそうだ。
次期政権をうかがう二大政党の党首がいずれも、国家のために努力し、戦い、敗北し、命を落とした人々の魂を、慰め、鎮め、感謝の祈りを捧げることを、他国に気兼ねして行わないと表明したことに、私は深い喪失感を抱く。日本はここまで大事な価値観を失ってしまったのか。精神の支柱を腐らせたかのようなこんな国がほかにあるだろうか。 (続きあり) (MSN産経)
櫻井氏の言葉に同感です。 「敗戦」を境に、戦前の日本人と戦後の日本人には、深い深い精神的な断絶があります。戦後日本は国の背骨を骨抜きにされ、日本人は育んできた価値観に蓋をされて、国の復興が精神的な支柱を失ったまま、経済(お金)のみに集約されて60年がながれてしまったことが、現在の日本と日本人を作ったのでしょう。
そのことを自覚している人々はあまりにも少ない。二大政党の党首が、国のために戦い命を落とした戦没者の慰霊のために、「靖国」に行かないことをためらいもなく語る。このことがそれを象徴しています。日本という共同体の連綿と続いてきたはずの価値観は、今まさに存亡の危機です。
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