![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0d/4f/561b07decee0ae099c7704360ead2c59.jpg)
授業が始まっても、彼はずっと上の空だった。
頭の中は、先程倒れて保健室へと運ばれて行った雪のことばかりが占める。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/06/4c/0abc14c1f5e646f47539b1c8989a413f.jpg)
前方の席に、伊吹聡美と福井太一が座っている。
中でも伊吹聡美は、授業中だというのにずっと太一に話し掛け続けていた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/74/3d/d6ec724eb9877c9644f1b5d7d10bd810.jpg)
聡美の隣には雪の鞄が置かれており、
それはまだ彼女が保健室で寝ていることを示していた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/21/55/c8b7711359ec8ce0cfb34d61348f97f9.jpg)
ざわざわと、胸の中がざわめく。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/51/2a/a5c66901ff301d9513d13eb8fe0306ca.jpg)
瞼の裏に浮かぶのは、先ほど目にした彼女の横顔。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/78/ac/bee848ca122886f201bdcea8ee208956.jpg)
伝う汗、赤い顔‥。
そういえば彼女を初めて見た時も、液体が彼女の顔を伝うのを見た。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/21/47/233db29d6a9290b6ec08b8ebe4285a66.jpg)
それを見て淳は、正直”汚らわしい”と思ったのだ。
この子もまた、周りに居る大多数の顔の無い人間と同じだ、と。
ぷっ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/62/12/478eaf2726395f351ef14a2a26b96133.jpg)
その考えがどこか違うと気付いたのは、あの時だった。
開講後に柳に頼まれ顔を出した佐藤広隆主催の自主ゼミ。
自身の本性を見抜かれ、嘲笑されたあの時‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6d/a1/bcf2a5878fbcd893176036058d2057cb.jpg)
あの時、淳は彼女から目を離すことが出来なかった。
目を丸くしてこちらを向く彼女に、言い様のない苛立ちを感じながら。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/43/4f/1ea807025ad572736ef52547db036fc8.jpg)
それからだった。
彼女を無視するようになったのは。
後ろから嫌な視線を感じようとも、決して淳は振り返ろうとしなかった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1e/cd/40f3ac68b587dfe5741e73c5a8b53231.jpg)
自分を出し抜こうとする彼女に、嫌がらせを仕掛けたこともあった。
あれは国際マーケティングのグループワークで、彼女と同じ班になった時のこと。
「君が持つB企業の資料の中で、グローバルマーケティング事例を種類別に選定出来ないかな?
そしたら時間も短縮出来て助かるんだけど」「あ‥はは‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/24/f8/7fb370db86d9abfb99835c6a024a03e3.jpg)
彼女が断れないことは想定の範囲内だった。
けれどその後皆で行った飲みの席での彼女は、想定の範囲外の言動を見せた。
淳が奢ることを当然と思っている皆の中で、唯一彼女だけがそれを疑問に思っていたのだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/2b/116ccf0cd6b4b1f8011f0a8227f67c0b.jpg)
次第に彼女のそんな姿を、ちょくちょく目にするようになっていった。
あれは中庭にて一人ベンチに座っていた時、偶然耳にした彼女と母親との電話での会話‥。
「私の方がずっと一生懸命やって来たの!
お父さんに認めてもらおうとどれだけ必死だったか分かってる?!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6f/84/07bbd836668768d7e65aacf9bc9b0e2f.jpg)
彼女のどこかしらに触れる時、いつも淳は心を乱された。
いつもの自分らしからぬ自身を目の当たりにさせられた。
それが最も顕著に現れたのは、学園祭の意見を戦わせたあの時だった。
「学祭だからって派手なだけの企画なら、やらないほうがマシじゃないか?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/79/67/177ff37f44922d624e8a4f592a6b2b64.jpg)
そしてそんな時は決まって、彼女は予想の範疇を飛び出して行く。
彼女の意見を否定したあの時、また怒ると思ったのに。
また敵意を向けられると思ったのに‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5f/ec/e6da595207991ac641ee9cd5226be5cf.jpg)
何もかも諦めたようなあの瞳を見た途端、衝撃を受けた。
彼女の瞳に映る自分が、彼女と同じ表情をしていることにも‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/21/c5/919379f09319f3683d312984355e9c48.jpg)
それからだった。
彼女へ向かう敵意や悪意が影を潜め始めたのは。
女癖の悪い先輩に騙されそうになった彼女を、頼まれてもないのに助けたりして。
「青田淳‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/52/37/74b2c7f7212a56d39f44df971b1f305d.jpg)
自分でも、彼女に対する自身の感情の説明がつかなかった。
気がついたら目に入る、彼女の後ろ姿。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/16/64/93ca7e2aa0933f0e2f5b2d6ed1dd9ff0.jpg)
学園祭の前日、彼女は淳のすぐ側で眠っていた。
高熱を出した彼女の頬に触れた時の、あの感触‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/70/e7/bb4729a3660dc499865ef46a33554145.jpg)
ごめんなさい、わざとじゃないと呟きながら自身へと手を伸ばす、あの姿‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/33/92/831b078871d2d00349303b77a9ecf583.jpg)
全てが淳を囚えて離さなくなった。
風に揺れる彼女の髪が、サラサラと音を立てるのも、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/43/26/01a061452e7e0b0d49a1fbf2137cca35.jpg)
その指先が、自身の一片を掴むのも、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/16/d7/4b91b7d2c004b13ce57c2218289899a8.jpg)
淳の前では決して見せないその笑顔も、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/04/4e/8891af653898f45478eb470a48549adb.jpg)
恥辱のあまり赤面し、狼狽する彼女の表情さえも。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3e/22/2a3ebfb189ca9b5f0bcab0d1b08a5ed6.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/26/6e0c957075018f084fc69caa1a635dae.jpg)
心が、動いていた。
その感情にどんな名前が付けられるのか、それがどんな種類のものであるのか、
知りたい。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1c/b5/71cff26a3f8a1c1a9d942e4b68bc2c0b.jpg)
目の前では教授が退屈な授業を繰り広げる。
「であるから、ゴミ箱モデルとは‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/41/5a/7480bfe2acc4bda490f508e70ed7d4bb.jpg)
伊吹聡美は未だ太一に話し掛け続けている。
「今からでも病院連れて行った方がいいかな、どうしよう‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/74/06/a13162c78f77a417baa38b164f17ae4e.jpg)
恒常的に流れる時の隙間から、淳は一歩踏み出した。
「教授」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/ea/4664fb6d749a8b09737d7bdf24e7ab0d.jpg)
彼の一言で、時が止まる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/24/06/b9485b4af6364970c2dffd12646deae0.jpg)
淳は動き出した。
その心の動くままに。
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「緊急の用が出来てしまったので、
申し訳ありませんがしばらく出て来てもよろしいでしょうか?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/33/84/58d1a4f76be8e31ff4b3f98a108e3aa8.jpg)
突然申し入れた淳の要求を、教授は渋々と了承する。
「青田君、この授業で退席はペナルティです。
しかし本当に急用なら仕方がありませんね。どうぞ出て行きなさい」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/72/8d/eb5da538a92acf312afcc57f7661c137.jpg)
「ありがとうございます」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/00/01/786e46c20001f62152f17e2c28eab677.jpg)
そうして淳は教室を出て行った。
彼女へと向かって。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<雪と淳>動く でした。
雪と淳の歴史ダイジェストのような回でしたね。
淳の気持ちが少しずつ変化していっているのが見て取れます。
さて、保健室へと向かう淳!盛り上がってまいりました!
次回は<雪と淳>ざわめき です。
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次の回は、辞書で翻訳してもいつも以上に理解できなかったので、ワクワクしながら待っています!!!
改めて淳てほんと来るもの拒まずで来たんでしょうね~雪への一連の行動、、女性としての意識無さすぎる(笑)縄張りを荒らされた報復的な対象ですね~やはり(笑)(^-^;
恋愛感情が理解できずに自分で持て余して暴発しちゃうとこは可愛いんですけどね、、ウブ♪
でも、雪も結局自分の思い通りになる人間に仕立て上げた達成感(みたいな大きな誤解)が最新にあることを思うと、長い連載期間一貫した淳の通常営業っぷりに驚かされますね。。
でも変だよ、、淳。。気づいて~(て言ってあげたいですね)
決定するに必要な色んな要素がまるで
ゴミ箱の中のゴミのようにころころ動いて、
ぶつかり合ったり別れたりして、
(第三者の目には無駄な討論の繰り返しにしか
みえないが、ちゃんと意味はある)
まるでゴミ箱が一気に空になるみたいに
ある瞬間、一気に意思決定ができます。
どうかお許しください。
「この気持ちは何なのか?」を知るために、築いてきた秩序の殻を破って走り出した青田にちょっと興奮し過ぎたようです。(笑)
遂に追いついてしまいますね‥(TT)うう‥頑張ります。
mimiさんは辞書で翻訳してらっしゃるのですね。読めないのはもどかしいですが、意味が分かった時のスッキリ感はくせになりますよね~。
うめやんさん
淳の通常営業ぶり(笑)
「人は簡単には変わらない」というのがチートらのテーマなのかもしれませんね。
その上で、その変わらない自分でどう生きていくか。
「変わらない」淳を目の当たりにした雪の決断が気になります。淳の殻を破ってくれることを期待!
CitTさん
ほほぉ~!
ということは、ここの「ゴミ箱モデル」は今まで淳の中で成されなかった意志決定がここでスパッと決まる、というメタファーになっているということですかね?!
何気ないところにも線を張る名人、スンキ氏‥恐ろしい子‥!
ゆーたんばーさん
興奮してますね!笑
走り出す淳、良いですよね!彼の家に走って向かった雪ちゃんを思い出します。
とうとう動き出すんですね。臆病にみえて、めちゃくちゃ勇敢じゃないですか。かっこいいなぁ…
どうか2人が心から分かり合える日を信じています。
そういえば、コミコで最近新しく始まった「完璧な教室」(たぶん韓国の人作)もなかなかいい感じです。もうご存知ですか?コミコは韓国の人の作品がたくさんあって、「ときめく気分」なんかもすごくいいですよ~
韓国の人の作品って、心理描写的な内容がたくさんあって本当に好みです
ブログ更新いつも大大大感謝しています!
完璧な教室もチートラに通じるものがありますね
ところで周りにもチートラを宣伝してるのですが
意外と受けてないよお なんでかな
こんなに面白い漫画もそうは無いんですけどね
雪と出会ってからの回想(言い表せない感情)
から『動く』に至った意思決定
CitTさんの
ゴミ箱モデルの説明を読んで衝撃でした
スンキ氏…恐ろしい子…!(白目)
LINEマンガの更新が止まり、1週間ボー然としたのち、4部分を本日一気読みさせていただきました。
本当に感謝しきりです。
聡美と太一の展開とか、亮さんの手の真相とか、雪ちゃん休学の秘密とか、4部大事な要素詰まりすぎ!
これからもよろしくお願いいたします。
しかし、雪ちゃんはストレス性胃炎でなく逆流性食道炎ではないかという気がします。
ストレスが溜まると発症しやすくすぐ再発するんですよね…あれ。
お金がないから胃カメラちゃんと飲んで検査していなさそう…。
完璧な教室、読んでみました。こ‥怖い‥(@@)女同士のイザコザ‥本当に怖い‥。
これからどんどんストーリーが展開しそうですね。
ハバネロさん
チートラは特に一部、時系列がごちゃごちゃで読みにくいですからね‥。私も最初挫折しかけましたもの‥(^^;)(でもあの時挫折してたらこのブログも無いと思うと、頑張って良かった‥)
りんごさん
あの教授の一言にも伏線を張るスンキ氏‥。
恐ろしい子‥!(白目)
毛髪さん
お久しぶりです!覚えてますよ~。初コメの時、すごいHNだなと衝撃を受けたものです。
4部は文字通りストーリーの核心が詰まってますよね!LINE漫画しか知らない方、可哀想すぎる‥(TT)
逆流性食道炎‥!それっぽいですね。スンキさんもそれなのかもしれませんね。三週間の休養の間に胃カメラ飲んで検査して頂きたいですね‥。