![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/94/fb7cb3b8eba28f0e46a357905030edf8.jpg)
しんとした廊下を、淳は駆け足で通り過ぎた。
自分が抜けた後の教室は、また普段通りの退屈な授業が続いていることだろう。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/43/d2/c06435f4ffa0833386283a54db543f10.jpg)
恒常的に流れる時の狭間から、淳は遂に踏み出したのだ。
目的地の扉がもう目の前に見える。
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薬品や救急箱の並ぶ棚。クレゾールの匂い。
ここは保健室だ。
見回してみたが誰もいない。
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窓に掛かったロールスクリーンが微かに揺れていた。
僅かに開いた窓の間から、隙間風が入ってくるようだ。
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そしてその下に、彼女は横たわっていた。
小さなうわ言が彼女の口から微かに漏れている。
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熱のせいか疲れのせいか、彼女は汗を掻きながら、小さく身体を捩っていた。
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そんな彼女の傍に、佇んでいる自分。
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腕を組みながら、まるで観察するかのような眼差しで、彼は彼女をじっと見つめる‥。
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ざあっ、と外で強い風が吹いた。
風は窓の隙間から室内に吹き込み、薄いカーテンをひらりと揺らす。
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風はまだ吹き続けている。
ざわざわと鳴るその音は、室内でも淳の心の中でも鳴り続けていた。
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眠る彼女の頭上にも降る、そのざわめき。
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淳はただじっと、彼女の寝顔を凝視する。
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彼女の口から漏れるうわ言はやがて止まり、すぅすぅと穏やかな寝息が聞こえるようになった。
しかし顔色は悪く、目の下のくまが色濃く残っている。
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その顔を見ている内に、なんとも滑稽な気持ちになった。
こんなに苦労して生きていたって、誰も認めちゃくれないのに。
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淳の独白が、闇に溶ける。
「赤山雪。倒れて、傷ついて、」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/50/9b/cd7646d4d4824f0d3b8d6183c5fec18e.jpg)
「ボロボロだな‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/49/39/b482eaa2b3e16fdd04267a1525aff428.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1a/50/ebc2d583b2d7f3cb2b40bd35b04c9375.jpg)
そんな哀れみの言葉を口にして、淳は彼女を見下ろした。
人生の苦労が滲み出ているその寝顔を。
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淳はふと口に出した。
彼女を俯瞰してみて、改めて感じるその気持ちを。
「変なの」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5a/33/c42cf6c318fef60bcc107eecf5d7df4b.jpg)
するとその声が届いたのか、雪がモゾモゾと寝返りを打った。
淳はその様子をじっと眺めている。
「うう‥ん」
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仰向けから横向きに姿勢を変え、雪は再び眠りに就いた。
布団から出た彼女の半身が見える。
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どこか既視感を覚えながら、淳はその姿を見つめ続けていた。
目に留まるのは、僅かに動く彼女の指先。
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ざわ、と心が動いた。
固く組んでいた淳の右手が、ゆるゆると外れる。
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指先が、彼女を求めて動いた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3e/d2/d0f1dcdb009c575b9e33f830818e86f2.jpg)
小さなその手の方へ向かって、
ゆっくりと降りて行くが、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/47/d3/af6b59cf066479a8d32999b4cfb0fb68.jpg)
瞬間、触れるのを躊躇う。
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けれど。
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彼女に手を掴まれたあの時の感情を、彼女に繋がるその接点を、もう一度繋ぎたい。
そんな感情が、淳の心の中に広がった。
一度引っ込めたその指を、再び彼女へと伸ばす‥
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その時。
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雪は薄く目を開けた。
何かふとした気配を感じて。
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焦点の合わない雪の瞳が、
自身を見下ろす淳の姿を映し出す‥。
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<雪と淳>ざわめき でした。
腕組みして雪を見下ろす淳先輩‥。
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な‥なんて偉そうな‥
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授業単位にペナルティもらってまで駆けつけた人とは思えない態度‥。
心がざわめいて仕方がないんでしょうね。
次回は<雪と淳>覆われた瞼 です。
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「どうして俺、こんな奴のことが気になっちゃってんの?」
っていう表情だと思ってたんです。
「変なの」っていう禁忌ワード出ましたが、雪に言いながら、なんだか自嘲も入ってる気がしました。
この回は青田先輩の色々な表情が見れて、マジで神回です!
青田先輩…
好きだ!!!(俺物語風)
ちなみに私は冷たい目で見下ろされたいです。笑
腕組みは雪というイレギュラーな存在への防御のようにも見えます。恐いけど見たいのね淳。
でも結局これも雪から影響を受けている、知らない自分を知りたい、みたいな好奇心に見えてきました。。(^_^;)普通の恋愛モノなら、もっとロマンチックな筈なのに、、(笑)
もう騙されないぞ~てなてきますね(笑)
ちーとらは恋愛モノより心理的なホラーだと最近は思うようになりました。(´ω`)わははー
あそこの淳、ゲスい表情してますよね(笑)
「変なの」は自嘲にも取れますよね。
「俺は間違ってない」という強がりにも思えますが‥。
冷たい目で見下されたい、分かります!
私は静香と居る時の淳が好きで‥。色々妄想が膨らみます‥
うめやんさん
腕組みは無意識での防御の姿勢!納得です!
次々回、淳のモノローグがありますので、彼が何を考えているかお楽しみに!
当時、 淳のあの態度について、本家の人たちのコメントが少しあったんです。だいたい、「そんなの、堂々と喋って授業中に出るな!このヤロ!Σ(゜д゜lll)」の雰囲気でした。まあ、家族の誰かさんが入院したとか、亡くなったとかの場合、4年生だから、面接とかの理由で、授業中に出ることを見たことがありますが・・・さすが青田淳。
恐ろしい子!!!家がお金持ちで、お父さんが会長である会社に入社すれば大丈夫だから、ああいうですよね。羨ましい。 (つД`)ノ
最近、地震のことが大きく起きていますよね。例の熊本県。韓国も地震の安全地代だと言えませんけと・・・yukkanenさんと他のみなさん、お気をつけてください。
木陰で押し倒され大人しく口を塞がれたり、スズランの妖精以降スネちゃったり、雪の部屋でテレビ探して雪崩た時の先輩の左右の手がどーとか蒸気がどうとか、、あの頃は萌え悶えたもんです。
だのに、こげなこつ考えてたとですか、この人。
ちょっと不気味ながらも、ラブコメの要素を脳天気に楽しんでたあの頃。その後の大人な展開(「あの夜、俺の家で」青田語録)より、ギクシャクして初々しかったあの頃!
自撮りを見られてバツ悪がったり、秘密のおにぎりムキ特訓をうあはんに見つかったり、、
個人的に大好きのは、映画館でヨダレ垂らして寝てしまった雪ちゃんを見て微笑むシーンです。
そうなる前には、書類蹴ったり、横山けしかけたり、過去にダークな部分を小出しにさらしてきた青田さんですが、このゲスな顔って、もろ直前ですよね。泣いてる?&飯飯攻撃(からの怒涛の萌えシーン)に入る直前ですよね?(また時系列ヤバくなってたらすんません(汗)
んもー。なんなんだよ、この人(笑)
あ‥韓国では授業中抜ける時はあんな風に皆の前で言ってから出るんだ~と思って見てました。。あれは青田淳だからこその退出法なのですね。なるほど~
地震、私の住んでいる関西地方ではあまり揺れませんでしたが、九州は何度も余震が続き被害もだんだんと拡大しているように思います。心配です‥。九州在住の皆さま、どうぞお気をつけ下さいね。。
CitTさん
追いつきですよ‥。
姉様
お久しぶりです!さすがのちょびこ姉様節のコメですなー^^
イケメンだった頃の(涙)淳の歴史を垣間見ました。
あの笑顔の裏にはこのゲス顔を隠していたのですね‥。
んもーなんなんだよこの人、ですよホント‥。