長く降っていた雨も止み、雲は晴れ青空が広がった。
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今日は事務補助の仕事も少なく、雪はノートを広げ勉強をしているところだった。
先日、河村亮が講師から借りてくれた講義案のコピーをノートに書き写している。
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雪はそれを見ながら、先日の亮の姿を思い出していた。
媚びへつらいながら、ペコペコと頭を下げる彼の姿を。
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コピー室でブチ切れていたのを見る限り、相当頭に来ていたはずだ。
けれどこの講義案を手に入れるために自分の感情を押し殺してまで、きちんと彼は責任を果たしてくれた。
ただの金食い虫だと思っていたのに‥。
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意外と責任感あるんだなぁ‥
雪は亮の意外な一面に驚きつつも、もう一つ心に引っかかったものにそろそろ向き合わなければならないと感じていた。
青田先輩と、河村亮の関係性である。
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出来ればお互いにこの話題は避けたいところだけど‥。先輩と付き合ってる仲なんだから、
そろそろ言うべきだよね?河村氏と同じ塾に通ってるってこと
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雪は携帯電話に手を伸ばす。
先輩に貰った、ライオンの人形が揺れた。
仲の悪い人と私が絡んでるって知ったら良くは思わないだろうし‥
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先輩からの着信もメールも無い。今日は連絡も無しに遅いな、と思った時だった。
雪の手の中の携帯がいきなり震えた。
青田先輩からの着信だった。
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まるでエスパーのようなタイミングである。
雪は心臓をバクバクいわせながら電話に出ると、先輩は申し訳なさそうに言った。
「今日、友達と急な約束が出来て行けそうもないんだ」
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いつもは一緒にお昼を食べに行っているが、今日は行けないので助手さん達と食べて、と先輩は言った。
仕事もあまり無理しないように、とも。
「勉強も俺が言ったところまでちゃんとやっておくように。
それじゃ、外だからそろそろ切るよ。頑張ってな」
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お父さんの言うセリフのようだが(
)、雪は素直に了承し、先輩も楽しんで来て下さいと笑顔で送り出した。
その後、雪は勉強も仕事も、先輩が居なくてもきちんと真面目にこなした。
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お昼ご飯も食べ、仕事も一段落する頃少し睡魔が襲ってきて、雪は思わず大あくびをした。
ハッと、遠藤の方を窺う。
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しかし遠藤は雪の方を見ることもなく、静かにPCに向かっていた。
いつもはガミガミと小うるさいのに、最近はヒステリーも起こさず大人しい。
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雪は少し気になりつつも、そのまま机に向かった。
ふと隣を見ると、いつもは座っている先輩がいないから変な感じだ。
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雪は頬杖をつきながら、気怠い退屈を感じた。
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しかし次の瞬間事務所のドアが開き、
とある人物が入ってくることで彼女の退屈は消し飛ぶことになる。
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その人物がドアを開けると、品川さんが驚いたような声を上げた。
「あら?!誰かと思えば!久しぶりねー!元気だった?」
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ご無沙汰してます、とその人物は口を開いた。
少し落ち着いたその声に、雪は聞き覚えがあった。声の主を見ようと、PCから顔を出した。
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どなたですか、と聞いた雪に、品川さんがその人物の名を明かす。
「平井さんよ!平井和美さん!覚えてるでしょ?去年二年生の学科代表だった」
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かくして二人は再会した。
平井和美が休学して以来、二人は初めて顔を合わせた。
しかしお互いに苦い過去が脳裏を掠め、二人は互いの顔から目を逸らした。
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品川さんは二人の気まずい空気には気が付かず、そのまま和美と話を続けた。
平井和美は必要な書類を取りに事務所に来たと言う。
「何の書類?」 「国際交流プログラムです」
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雪は聞き耳を立てていた。留学でもするのだろうか‥。
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品川さんがいつ頃戻ってくるのかと彼女に聞くと、
和美は「多分一年以上は帰らないと思います」と憂いを含んだ表情で答えた。
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雪は和美のその顔を、何となく微妙な気持ちで眺めていたのだが、
次の瞬間品川さんが思いがけないことを口にした。
「それはそうと残念ねぇ、いつもなら淳くんに会えたのに!」
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雪の背中がビクッと揺れる。
制止しようとする雪だが、品川さんは尚も言葉を続ける。
「雪ちゃん、さっきの電話淳くん来れないって連絡だったのよね?」
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はい、としか雪は答えようが無かった。
そして品川さんに他意はなかった。ただ休み中は同じ学科の子同士で会うこともないだろうから、
せっかくだから会えたらよかったのにね、という意味に過ぎなかった。
しかし平井和美にとってそれは大きな意味を持った。率直な疑問が口を吐いて出る。
「あの、どうして青田先輩がここに‥」
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それに対して、品川さんは何の躊躇いもなく笑顔を浮かべた。
「ん~? そりゃあ雪ちゃんと付き合ってるから~」
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その答えに、平井和美の動きが止まった。
和美の「え?」という言葉を最後に、空気が重く沈んでいく。
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さすがの品川さんもその尋常じゃない雰囲気に口を噤んだ。とんでもないサプライズだ。
雪は恐ろしいものを見るかのように和美の後ろ姿を見ていた。
怒るだろうか、それとも皮肉るのだろうか‥。

しかし窺い見えた横顔は、そのどちらとも違っていた。
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驚きのようでもあり、落胆のようでもあった。
しかし雪はだんだんと、和美の口元が歪んで行くのを見ていた。
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彼女の気持ちが変化していくのを、雪は見てみぬふりをして背を向けた。
知ったこっちゃない。別に悪いことしてるわけじゃないし
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和美は雪のデスクまで来て、「ちょっといいかしら」と言った。
仕事中だから、と断った雪だが、和美は強い口調で「話があるの」と言う。
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その瞳には、去年の嫉妬に歪んだ視線とはまた別の強い光があった。
雪は目の中に燃えるそれを見て取る。
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そんな二人のやりとりを見て、品川さんが今日は仕事も少ないから行ってらっしゃいと気を利かせた。
マズイ事をしてしまったという罪滅ぼしも兼ねて。
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雪は溜息を吐いて、和美をカフェに誘った。
二人は無言のまま、連れ立って歩いて行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<再会>でした。
ついに平井和美カムバック!の回でした。
しかし日本語版の、雪が事務所を尋ねて来たのは誰かと聞くセリフ‥「どちらさん?」‥。
「ちょっくら」「おいとま」「どちらさん?」個人的には気になるセリフ御三家です(笑)
さて次回はThe修羅場!
<明かされる顛末(1)>です。
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今日は事務補助の仕事も少なく、雪はノートを広げ勉強をしているところだった。
先日、河村亮が講師から借りてくれた講義案のコピーをノートに書き写している。
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雪はそれを見ながら、先日の亮の姿を思い出していた。
媚びへつらいながら、ペコペコと頭を下げる彼の姿を。
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コピー室でブチ切れていたのを見る限り、相当頭に来ていたはずだ。
けれどこの講義案を手に入れるために自分の感情を押し殺してまで、きちんと彼は責任を果たしてくれた。
ただの金食い虫だと思っていたのに‥。
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意外と責任感あるんだなぁ‥
雪は亮の意外な一面に驚きつつも、もう一つ心に引っかかったものにそろそろ向き合わなければならないと感じていた。
青田先輩と、河村亮の関係性である。
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出来ればお互いにこの話題は避けたいところだけど‥。先輩と付き合ってる仲なんだから、
そろそろ言うべきだよね?河村氏と同じ塾に通ってるってこと
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雪は携帯電話に手を伸ばす。
先輩に貰った、ライオンの人形が揺れた。
仲の悪い人と私が絡んでるって知ったら良くは思わないだろうし‥
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先輩からの着信もメールも無い。今日は連絡も無しに遅いな、と思った時だった。
雪の手の中の携帯がいきなり震えた。
青田先輩からの着信だった。
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まるでエスパーのようなタイミングである。
雪は心臓をバクバクいわせながら電話に出ると、先輩は申し訳なさそうに言った。
「今日、友達と急な約束が出来て行けそうもないんだ」
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いつもは一緒にお昼を食べに行っているが、今日は行けないので助手さん達と食べて、と先輩は言った。
仕事もあまり無理しないように、とも。
「勉強も俺が言ったところまでちゃんとやっておくように。
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お父さんの言うセリフのようだが(
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その後、雪は勉強も仕事も、先輩が居なくてもきちんと真面目にこなした。
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お昼ご飯も食べ、仕事も一段落する頃少し睡魔が襲ってきて、雪は思わず大あくびをした。
ハッと、遠藤の方を窺う。
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しかし遠藤は雪の方を見ることもなく、静かにPCに向かっていた。
いつもはガミガミと小うるさいのに、最近はヒステリーも起こさず大人しい。
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雪は少し気になりつつも、そのまま机に向かった。
ふと隣を見ると、いつもは座っている先輩がいないから変な感じだ。
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雪は頬杖をつきながら、気怠い退屈を感じた。
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しかし次の瞬間事務所のドアが開き、
とある人物が入ってくることで彼女の退屈は消し飛ぶことになる。
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その人物がドアを開けると、品川さんが驚いたような声を上げた。
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ご無沙汰してます、とその人物は口を開いた。
少し落ち着いたその声に、雪は聞き覚えがあった。声の主を見ようと、PCから顔を出した。
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どなたですか、と聞いた雪に、品川さんがその人物の名を明かす。
「平井さんよ!平井和美さん!覚えてるでしょ?去年二年生の学科代表だった」
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かくして二人は再会した。
平井和美が休学して以来、二人は初めて顔を合わせた。
しかしお互いに苦い過去が脳裏を掠め、二人は互いの顔から目を逸らした。
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品川さんは二人の気まずい空気には気が付かず、そのまま和美と話を続けた。
平井和美は必要な書類を取りに事務所に来たと言う。
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品川さんがいつ頃戻ってくるのかと彼女に聞くと、
和美は「多分一年以上は帰らないと思います」と憂いを含んだ表情で答えた。
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雪は和美のその顔を、何となく微妙な気持ちで眺めていたのだが、
次の瞬間品川さんが思いがけないことを口にした。
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雪の背中がビクッと揺れる。
制止しようとする雪だが、品川さんは尚も言葉を続ける。
「雪ちゃん、さっきの電話淳くん来れないって連絡だったのよね?」
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はい、としか雪は答えようが無かった。
そして品川さんに他意はなかった。ただ休み中は同じ学科の子同士で会うこともないだろうから、
せっかくだから会えたらよかったのにね、という意味に過ぎなかった。
しかし平井和美にとってそれは大きな意味を持った。率直な疑問が口を吐いて出る。
「あの、どうして青田先輩がここに‥」
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それに対して、品川さんは何の躊躇いもなく笑顔を浮かべた。
「ん~? そりゃあ雪ちゃんと付き合ってるから~」
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その答えに、平井和美の動きが止まった。
和美の「え?」という言葉を最後に、空気が重く沈んでいく。
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さすがの品川さんもその尋常じゃない雰囲気に口を噤んだ。とんでもないサプライズだ。
雪は恐ろしいものを見るかのように和美の後ろ姿を見ていた。
怒るだろうか、それとも皮肉るのだろうか‥。
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しかし窺い見えた横顔は、そのどちらとも違っていた。
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驚きのようでもあり、落胆のようでもあった。
しかし雪はだんだんと、和美の口元が歪んで行くのを見ていた。
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知ったこっちゃない。別に悪いことしてるわけじゃないし
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和美は雪のデスクまで来て、「ちょっといいかしら」と言った。
仕事中だから、と断った雪だが、和美は強い口調で「話があるの」と言う。
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その瞳には、去年の嫉妬に歪んだ視線とはまた別の強い光があった。
雪は目の中に燃えるそれを見て取る。
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そんな二人のやりとりを見て、品川さんが今日は仕事も少ないから行ってらっしゃいと気を利かせた。
マズイ事をしてしまったという罪滅ぼしも兼ねて。
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雪は溜息を吐いて、和美をカフェに誘った。
二人は無言のまま、連れ立って歩いて行った。
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<再会>でした。
ついに平井和美カムバック!の回でした。
しかし日本語版の、雪が事務所を尋ねて来たのは誰かと聞くセリフ‥「どちらさん?」‥。
「ちょっくら」「おいとま」「どちらさん?」個人的には気になるセリフ御三家です(笑)
さて次回はThe修羅場!
<明かされる顛末(1)>です。
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この漫画を数年前から読み始め一度全部読んだのですが、暫く経った今複雑だった内容を忘れてしまい、分かり易くまとめられたサイトがないかと探したところ、こちらへ辿り着きました。
さっそく記事を読んでみたところ、内容は時系列ごとにまとめられていてとても分かり易く、日本語版ではカットされていたところも補充されていて、翻訳時に生まれたであろう違和感も詳しく解説されてあり、痒い所に手が届く!という感じでした(笑)
本編が好きだったのもあり、3日でここまで追いついてしまいました…(^-^)
また、以前自分で読んだ時とは違った解釈が読めたのもとても良かったです。
こちらのブログのおかげで、チーズインザトラップの面白さを更に深く知ることができました!
これからも拝見させていただきます(*´`*)
それでは長文失礼致しました。
更新頑張ってください!
コメントありがとうございます(^^)
3日で100を超える記事を全て読まれたなんて‥!すのさんの目の疲れが心配です‥(笑)大丈夫でしたでしょうか‥(^^;)
当ブログ、楽しんで頂けたようで嬉しいです!
拙い文章ではありますが、これからも良かったらご贔屓にお願い致します♪
雑談でも解釈でも何でも、いつでも遊びに来てください☆
更新がんばります!ありがとうございます~~(^0^)