いつの間にか、肩に触れていた雪の手は彼から離れていた。
淳の瞳に宿るその暗い闇を感じ取り、触れるのを無意識に躊躇ったせいなのかもしれない。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/45/7f/e6149ce8d1e3e82911342905272c6a7c.jpg)
淳は血の気の引いた顔をして、雪のことをただじっと見ていた。
いつもは下がった目尻が印象的な彼の、吊り上がった目つき。雪は絶句した。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/e4/dd8b3cfa91c3104627ef734fa66f26d2.jpg)
先輩、と声を掛けてみようとしても、声が掠れて出なかった。
軽い質問すら拒ませる程、彼は尋常では無い表情をしている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/41/23/5bc25978586586ddd74b33a153a0b423.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/92/6e8bded2bf16e4f9cfc42f58e42d5e78.jpg)
淳は瞬きもせぬまま、前に座る亮の方へ視線を流した。
亮はまだ電話で蓮と会話を続けていたが、ふと視線に気が付き淳の方を見る。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/46/f232b33eeab950fa26796966b6b30d5c.jpg)
しかし目が合ったと思った途端、淳の方が先に目を逸らした。
スローモーションの様に、淳の視線は流れて行く。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3d/ff/44f45dec9cc36fb643e1bfeca3512f12.jpg)
そして淳は、そのままゆっくりと俯いた。
何も言わず何も見ず、彼は自分の世界へ入り込んで行く。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/46/c7/c1080819ef4f8174224c7c6d2232f9df.jpg)
雪が目にした彼の横顔は、なんと形容して良いか分からぬほど異常だった。
普段目にする彼とは全く違う。何もかもがはぎ取られ、心の暗い所を剥き出しにしてしまった様なその姿。
人望が熱く人気者で優等生の表の顔とは、対極にあるその裏の顔‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/53/f4/c85aef163600b091e953ef3d0e434711.jpg)
雪は絶句し、目を見開いたまま彼の横顔を見つめていた。
彼の発する闇にただただ圧倒され、何も考えることが出来なかった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/37/c2/74bf3700ea2dd46bebd8bdf2bb6b7bcd.jpg)
淳は自己の意識が、心の深い所へ潜って行くのを止めることが出来なかった。
無意識に、トントンと規則的なリズムを刻んでいた。それは、心の音に良く似ている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/48/5e/bdb6a86cea900af1c965156824a9ce06.jpg)
浮かんで来る記憶は、高校時代のものだった。
亮の背に手を回し、優しく言葉を掛ける父親の後ろ姿。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/12/b1/72ab35e8c7b5a3770d04d4ae90cab6a4.jpg)
二人はこちらを振り向かない。
父は自分の方を振り向かない。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/43/f7/028ca5062c1bd365c5879d0c440f9504.jpg)
トントントンと、規則的な音がする。
指を叩いているのかつま先を鳴らしているのか、それとも頭の中に響いているだけなのか。
記憶は意識の深い所から、その場面を見せつけるかの様に引き出してくる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4b/47/e0779b0468caaa866a0ff18e1f109fe2.jpg)
あの時立ち尽くしていた自分の方を、亮は振り向いた。父の隣で。
その表情を思い出した途端、胃の中が不快感でいっぱいになる。
息も出来ないほど苦しい。
ここは暗い、深い闇ー‥。
‥んぱい、先輩‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/62/1b/80bb327d5a6244546e5a2645c5960181.jpg)
遠くから、微かに声が聞こえた。
徐々にその声は大きくなり、気がついた時には、雪が血相を変えて彼のことを呼んでいた。
「先輩!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/42/20/77d7b7ea70d4864c74c603b91f19dea7.jpg)
淳は口元を抑えたまま、彼女の方を見ずに一言発する。
「‥気持ち悪い‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/74/5a/23e20c48232b8a03818aabb622f6235b.jpg)
そして淳は席を立った。
「もう行く」とだけ口にして。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/04/00/a1f928c84c01d5bc71aee8ef00ceb4d4.jpg)
そのまま早足で学食を後にする淳を、「待って下さい!」と言って雪は必死に追いかけた。
亮は眉を顰めながら、「んだぁ?いきなり‥」と小さく呟く。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/37/c53463ae7fb7fd093d82be69f89ca678.jpg)
すると淳は亮の方へ振り返り、凄まじい形相で彼の事を睨んだ。
見る者を凍てつかせるような、怨念の篭ったそんな瞳で。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/08/4d/fe290b1f4f2d3b7bf28fbbc6fcbb6e79.jpg)
亮は心の先端が、ピリッと感電したように痺れるのを感じた。
あれと同じような淳の表情を、自分はかつて目にしたことがある。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0f/c6/be6c7e8a118aa8561ce45fc018de4ba8.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/df/8fa4da1f95252aa9208c101a77b76731.jpg)
暗い記憶とともに思い出すのは、どこからともなく響いてくるその音。
規則的なそのリズム。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4a/ee/f75299159b9a0f9feaef21ef4baab4a7.jpg)
トントントン。
トントントン‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/29/f2/b5969d32a291f04d049f489ac8901f0b.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/38/2d/0fbb58471cbe0781468110d8d375d0d8.jpg)
あの後ろ姿が、現在の彼のそれに重なる。
まだ心の先端がピリピリしている。亮の危険を知らせるシグナルが、それを感じ取って警鐘を鳴らす。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/67/94/60dcffc092388c7f2cb6f475b622ca4d.jpg)
亮は過去のあの事件を思い出しながら、
とてつもない不安が胸の中に広がるのを感じていた。
虚飾の笑顔を取り去り、裏の顔を剥き出しにした淳の恐ろしさを、きっと自分は誰よりも知っているー‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/55/e8/52c28800652c6566cfbefe2585ad9334.jpg)
「先輩!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/b4/6522745100c1099b5c697fb42c95296b.jpg)
ガシッと、雪は淳の手を握った。
早足で歩く彼に、雪はようやく追いついたのだ。少し息が上がっている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2a/e0/a22b94a267e81d90e59212e8af37781d.jpg)
雪は手を握りながら、なんと話を切り出して良いのか迷った。
戸惑いながら、ただ「先輩‥」と口にする。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6a/61/02f39d05ac5a7f6cfcd51c396298a153.jpg)
淳はそんな雪を見下ろしながら、冷淡な瞳をして淡々とこう言った。
「随分仲良くなったみたいだな」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/67/e6/98b09fd43ce346831675a348a97ad9c0.jpg)
冷たいその言い方に、雪は何も言えずに俯いた。そして顔を上げ、とにかく謝ろうと口を開く。
「先輩、ごめんなさ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/76/af/f0a3e8aaa1f8b29bb7c1aefcf88926c1.jpg)
しかし雪が言い終わる前に、淳は小さくこう言った。
「今日はもういい」と。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4a/ab/d40629d199535d73e08b61faa1bf32d7.jpg)
そして雪が掴んでいたその手を、淳は振りほどいて背を向けた。
雪の手は力なく垂れ下がり、その場に置いて行かれる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/24/66/72ead6daa673acbe811527d7f7c8f61e.jpg)
雪は呆然として立ち尽くした。
彼がこうなってしまった理由も、その原因も、何も確かなものが分からない。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/5d/61181c826464d59b0f6742ddd8f5bdd4.jpg)
雪は焦る心のまま、彼に向かって駆け出していた。
「先輩待って!先輩‥!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/11/90/4a6188dfa60f6bd63ee97ef4e3fa4184.jpg)
すると彼は一旦立ち止まり、雪の方を振り向くこと無くこう言った。
「明日も来るから‥今日は本当にもう‥無理だ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2a/a0/f91a20fcbd81e2beddf01026a8dad74c.jpg)
「無理だ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7d/79/ad8d36c812d58e1e2d24f5aa46af654b.jpg)
立ち尽くす雪に向かって、最後に彼はこう言った。
どこか聞き覚えのある、その言葉を。
「もういいから、行ってくれ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/19/6d/4f39df761c41fdd29824a711f61e80ee.jpg)
そして彼は行ってしまった。一度も振り向くこと無く。
雪の表情が、彼の背中を見つめたまま陰って行く。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/54/7f/65e24ba0319d70c387cbfcc260d29488.jpg)
彼の後ろ姿が、どんどん小さくなって行く。
雪の頭の中で、それはとある場面と重なって見えた。
うんざりするほど‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/92/2caa62e2554157a4e34fceef889e7ff9.jpg)
うんざりするほど見た‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5c/61/2b749b0c06f4d7e1844d47d17ecb7339.jpg)
あの疎ましい、後ろ姿
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/b8/7a85df4c0bb059573843937386f09a7d.jpg)
そして雪の記憶は、およそ一年前に飛ぶ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<彼の裏>でした。
先輩はとうとう限界を迎え、裏の顔が剥き出しになってしまいましたね‥。
自己の世界にこもる時の、トントンという音が印象的でした。
さて次回は過去編です。去年のとある出来事ですので、カテゴリは雪2年に入ります。
<<雪と淳>誘い> です。
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淳の瞳に宿るその暗い闇を感じ取り、触れるのを無意識に躊躇ったせいなのかもしれない。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/45/7f/e6149ce8d1e3e82911342905272c6a7c.jpg)
淳は血の気の引いた顔をして、雪のことをただじっと見ていた。
いつもは下がった目尻が印象的な彼の、吊り上がった目つき。雪は絶句した。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/e4/dd8b3cfa91c3104627ef734fa66f26d2.jpg)
先輩、と声を掛けてみようとしても、声が掠れて出なかった。
軽い質問すら拒ませる程、彼は尋常では無い表情をしている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/41/23/5bc25978586586ddd74b33a153a0b423.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/92/6e8bded2bf16e4f9cfc42f58e42d5e78.jpg)
淳は瞬きもせぬまま、前に座る亮の方へ視線を流した。
亮はまだ電話で蓮と会話を続けていたが、ふと視線に気が付き淳の方を見る。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/46/f232b33eeab950fa26796966b6b30d5c.jpg)
しかし目が合ったと思った途端、淳の方が先に目を逸らした。
スローモーションの様に、淳の視線は流れて行く。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3d/ff/44f45dec9cc36fb643e1bfeca3512f12.jpg)
そして淳は、そのままゆっくりと俯いた。
何も言わず何も見ず、彼は自分の世界へ入り込んで行く。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/46/c7/c1080819ef4f8174224c7c6d2232f9df.jpg)
雪が目にした彼の横顔は、なんと形容して良いか分からぬほど異常だった。
普段目にする彼とは全く違う。何もかもがはぎ取られ、心の暗い所を剥き出しにしてしまった様なその姿。
人望が熱く人気者で優等生の表の顔とは、対極にあるその裏の顔‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/53/f4/c85aef163600b091e953ef3d0e434711.jpg)
雪は絶句し、目を見開いたまま彼の横顔を見つめていた。
彼の発する闇にただただ圧倒され、何も考えることが出来なかった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/37/c2/74bf3700ea2dd46bebd8bdf2bb6b7bcd.jpg)
淳は自己の意識が、心の深い所へ潜って行くのを止めることが出来なかった。
無意識に、トントンと規則的なリズムを刻んでいた。それは、心の音に良く似ている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/48/5e/bdb6a86cea900af1c965156824a9ce06.jpg)
浮かんで来る記憶は、高校時代のものだった。
亮の背に手を回し、優しく言葉を掛ける父親の後ろ姿。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/12/b1/72ab35e8c7b5a3770d04d4ae90cab6a4.jpg)
二人はこちらを振り向かない。
父は自分の方を振り向かない。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/43/f7/028ca5062c1bd365c5879d0c440f9504.jpg)
トントントンと、規則的な音がする。
指を叩いているのかつま先を鳴らしているのか、それとも頭の中に響いているだけなのか。
記憶は意識の深い所から、その場面を見せつけるかの様に引き出してくる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4b/47/e0779b0468caaa866a0ff18e1f109fe2.jpg)
あの時立ち尽くしていた自分の方を、亮は振り向いた。父の隣で。
その表情を思い出した途端、胃の中が不快感でいっぱいになる。
息も出来ないほど苦しい。
ここは暗い、深い闇ー‥。
‥んぱい、先輩‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/62/1b/80bb327d5a6244546e5a2645c5960181.jpg)
遠くから、微かに声が聞こえた。
徐々にその声は大きくなり、気がついた時には、雪が血相を変えて彼のことを呼んでいた。
「先輩!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/42/20/77d7b7ea70d4864c74c603b91f19dea7.jpg)
淳は口元を抑えたまま、彼女の方を見ずに一言発する。
「‥気持ち悪い‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/74/5a/23e20c48232b8a03818aabb622f6235b.jpg)
そして淳は席を立った。
「もう行く」とだけ口にして。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/04/00/a1f928c84c01d5bc71aee8ef00ceb4d4.jpg)
そのまま早足で学食を後にする淳を、「待って下さい!」と言って雪は必死に追いかけた。
亮は眉を顰めながら、「んだぁ?いきなり‥」と小さく呟く。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/37/c53463ae7fb7fd093d82be69f89ca678.jpg)
すると淳は亮の方へ振り返り、凄まじい形相で彼の事を睨んだ。
見る者を凍てつかせるような、怨念の篭ったそんな瞳で。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/08/4d/fe290b1f4f2d3b7bf28fbbc6fcbb6e79.jpg)
亮は心の先端が、ピリッと感電したように痺れるのを感じた。
あれと同じような淳の表情を、自分はかつて目にしたことがある。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0f/c6/be6c7e8a118aa8561ce45fc018de4ba8.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/df/8fa4da1f95252aa9208c101a77b76731.jpg)
暗い記憶とともに思い出すのは、どこからともなく響いてくるその音。
規則的なそのリズム。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4a/ee/f75299159b9a0f9feaef21ef4baab4a7.jpg)
トントントン。
トントントン‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/29/f2/b5969d32a291f04d049f489ac8901f0b.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/38/2d/0fbb58471cbe0781468110d8d375d0d8.jpg)
あの後ろ姿が、現在の彼のそれに重なる。
まだ心の先端がピリピリしている。亮の危険を知らせるシグナルが、それを感じ取って警鐘を鳴らす。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/67/94/60dcffc092388c7f2cb6f475b622ca4d.jpg)
亮は過去のあの事件を思い出しながら、
とてつもない不安が胸の中に広がるのを感じていた。
虚飾の笑顔を取り去り、裏の顔を剥き出しにした淳の恐ろしさを、きっと自分は誰よりも知っているー‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/55/e8/52c28800652c6566cfbefe2585ad9334.jpg)
「先輩!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/b4/6522745100c1099b5c697fb42c95296b.jpg)
ガシッと、雪は淳の手を握った。
早足で歩く彼に、雪はようやく追いついたのだ。少し息が上がっている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2a/e0/a22b94a267e81d90e59212e8af37781d.jpg)
雪は手を握りながら、なんと話を切り出して良いのか迷った。
戸惑いながら、ただ「先輩‥」と口にする。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6a/61/02f39d05ac5a7f6cfcd51c396298a153.jpg)
淳はそんな雪を見下ろしながら、冷淡な瞳をして淡々とこう言った。
「随分仲良くなったみたいだな」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/67/e6/98b09fd43ce346831675a348a97ad9c0.jpg)
冷たいその言い方に、雪は何も言えずに俯いた。そして顔を上げ、とにかく謝ろうと口を開く。
「先輩、ごめんなさ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/76/af/f0a3e8aaa1f8b29bb7c1aefcf88926c1.jpg)
しかし雪が言い終わる前に、淳は小さくこう言った。
「今日はもういい」と。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4a/ab/d40629d199535d73e08b61faa1bf32d7.jpg)
そして雪が掴んでいたその手を、淳は振りほどいて背を向けた。
雪の手は力なく垂れ下がり、その場に置いて行かれる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/24/66/72ead6daa673acbe811527d7f7c8f61e.jpg)
雪は呆然として立ち尽くした。
彼がこうなってしまった理由も、その原因も、何も確かなものが分からない。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/5d/61181c826464d59b0f6742ddd8f5bdd4.jpg)
雪は焦る心のまま、彼に向かって駆け出していた。
「先輩待って!先輩‥!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/11/90/4a6188dfa60f6bd63ee97ef4e3fa4184.jpg)
すると彼は一旦立ち止まり、雪の方を振り向くこと無くこう言った。
「明日も来るから‥今日は本当にもう‥無理だ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2a/a0/f91a20fcbd81e2beddf01026a8dad74c.jpg)
「無理だ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7d/79/ad8d36c812d58e1e2d24f5aa46af654b.jpg)
立ち尽くす雪に向かって、最後に彼はこう言った。
どこか聞き覚えのある、その言葉を。
「もういいから、行ってくれ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/19/6d/4f39df761c41fdd29824a711f61e80ee.jpg)
そして彼は行ってしまった。一度も振り向くこと無く。
雪の表情が、彼の背中を見つめたまま陰って行く。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/54/7f/65e24ba0319d70c387cbfcc260d29488.jpg)
彼の後ろ姿が、どんどん小さくなって行く。
雪の頭の中で、それはとある場面と重なって見えた。
うんざりするほど‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/92/2caa62e2554157a4e34fceef889e7ff9.jpg)
うんざりするほど見た‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5c/61/2b749b0c06f4d7e1844d47d17ecb7339.jpg)
あの疎ましい、後ろ姿
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/b8/7a85df4c0bb059573843937386f09a7d.jpg)
そして雪の記憶は、およそ一年前に飛ぶ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<彼の裏>でした。
先輩はとうとう限界を迎え、裏の顔が剥き出しになってしまいましたね‥。
自己の世界にこもる時の、トントンという音が印象的でした。
さて次回は過去編です。去年のとある出来事ですので、カテゴリは雪2年に入ります。
<<雪と淳>誘い> です。
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雪ちゃん大変そうだな(他人事)
大好きな雪ちゃんが知らぬ間に宿敵とよろしくやってるのを伺える光景を目の当たりにするなんて、いたたまれないです。。
鈍感雪ちゃんに腹立っちゃいますよ(~_~;)
いくらイケメンの淳ちゃんも男ですからね!男はいつまでたっても子供です。手が焼けます。
うちのもかなり年上なのに糞ガキです(-_-#)
すみません、ついつい愚痴が出ちゃいました…苦笑
雪ちゃんは頼ってこない子だから、
会社と大学の中間地点の適当に安い部屋を借り、
お金は半分ずつ払って一緒に暮らすのです!
疲れる社会生活の後雪ちゃんに会えるし、
対面することで雪もいろいろ話せるかも。
あ、青田先輩が誤解されないように言っておきます。
彼の言う「気持ち悪い」は誰かへの感想ではありません。
直訳は「中が良くない」。ここで「中」とは胃です。
消化がちゃんと出来ないとか、吐き気など。
胃の関係で調子が悪い時の表現です。
しかし2年の時シカトされまくってたときは雪ちゃん可哀想でしたが、今回の件は同情できね~ゴメンネです。過去編は挟みますがここから物語が動いていくことは間違いないですよね…!( ゜o゜)
てかCitTさんの同棲案!素敵!笑
本編ではお目にかかれなそうなので、ぜひ二次創作を…!その際はぜひR18解禁でお願いします。
亮さんと先輩との事でしたか。どっちか迷って、間違いの方で捉えてしまいました。雪ちゃんごめんね!
今回の記事のような内容をみると、母がよく見る韓国ドラマを思い出します。どろどろだな~
平和ボケしているので、ほのぼのシーンが欲しいですTT
comeback チキン太一~
蒸し返すようですが、以前どんぐりさんやむくげさんがコメで仰ってたように、亮さんに対する雪ちゃんの一連の接し方が納得できない…初めのころ有無を言わさず関わるな、と言われた時と違って、どうして自分が亮を嫌っているか、関わってほしくないと思っているかちゃんと説明したのに。雪ちゃんは納得も共感もイマイチだったけれど、一応それで話はついたのに、あの時の会話はなんだったのか…最近の密な接し方に悩むでもなく、ここまで先輩への配慮がされないのはあまりに極端すぎてちーとも共感できないです。
以前大勢の中で酩酊して闇の中にいた先輩を救ってくれた雪ちゃんの声が、今回は辛い現実としてしか響かないのでしょうか…
友人(河村氏)の力になりたいし、でも、先輩は嫌がるし、どうしたら、うまくできるのか、恋愛ってどうするのか、そんな感じなのでは。
特別編 あなたと私で書かれていた雪ちゃんのことを思いました。
先輩への恋愛感がまだ曖昧ですよね。
先輩ブチギレ、雪タジタジ。
どうする?雪ちゃん!
先輩が落胆していく様子がリアルに伝わる描写、そして師匠の言葉。すごい!
何でかわかんないってわかるだろ
なんか自分だけ、敏感さんて人にはこんな感じなのか?
淳の心の闇には気づいたクセにその裏にある悲哀は感じ取れないって
お亮さんと仲良くしたいならもう別れたら?って感じかしら
虻蜂取らずみたいな状況ですな
大事にしなきゃいけない優先順位間違うから自分に返ってきてるというか