高校時代の河村亮は、飛ぶ鳥を落とす勢いで数々の賞を総嘗めにしていた。
神童と呼ばれた彼が演奏を終えると、豪雨のような音で拍手が彼に降り注ぐ。
それは天才と呼ばれた彼の”当然”だった。
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本人はボウタイを結ぶのは窮屈で嫌だと言っていたが、異国の顔立ちをした彼にそれはとても良く似合っていた。
器量も良く身長も高い彼は、ビジュアルだけでも人々の関心を誘った。
それに加えて神がかった演奏をするとなると、誰も彼を放っておかなかった。
亮は、ステージ上で拍手を浴びる自分を見て嬉しそうに手を叩く青田会長にも、
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いつも世話になっている恩師に報いることが出来たことにも、誇りを持っていた。
手にしたグランプリのトロフィーは、もう何個目になるかすら分からない程だった。
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学校に出てくれば皆が亮に羨望の眼差しを送り、ピアノ野郎がジットリとした視線で睨んで来る。
これが高校時代の亮の日常だった。
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自分は大勢の中から選ばれた特別な存在であると、当然のようにそう思っていた。
高慢な態度を見せても、それが”河村亮”なら、全てが許されていたー‥。
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「よーく聞け。
全ての芸術にはなぁ、この二つが無ければなんねーんだ。一つは金。そしてもう一つはー‥」
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「才能だ」
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目の前の弟がそう口にするのを、河村静香は腕組みをしたまま眺めていた。
先ほど大暴れしたせいか、まだ弟の話を聞く余裕があった。
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亮は眉を寄せた表情のまま、静香にゆっくりと近付いて行く。彼女が黙っているのを良いことに、亮は喋り続けた。
「金?金ならあるよな。オレら個人の金じゃねーけど。
じゃあ才能?オレは持ってるけど、お前は生まれ変わっても持ち得ねーなぁ」
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仏頂面の静香に、亮は更に小言を続けた。
少し方向を変えればいくらでも道があるのに、なぜお前は美術だけに執着するのかと。
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自分に合ったものを探せ、と亮は言った。彼女は美術で何の成果も得られないまま卒業も出来ず、気づけば二十歳を迎えていた。
亮は、大仰な身振りで静香に説教を続けた。才能ある自分にとって、”当然”である現実を彼女に諭す。
「オレに対してガキみてぇな嫉妬をする時間も、お前が絵を描く時間も、
お前に掛かってる金も、全部ムダ!ムダ!」
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「ムダなんだよ!」
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振り返って目にしたピアノは、見るも無残な姿になってしまっていた。無論、静香の仕業だった。
「あの牛乳もムダ、楽譜もムダ、修理費もムダ‥。人生もムダにしてーのか?」
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そう言って舌打ちをする亮に、静香は低い声で口を出した。
「いい加減にしな。あたしを馬鹿にして‥また何するか分かんないわよ‥」
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しかし亮には彼女の言い分など耳に入らなかった。”当然”の現実を味方につけ、人差し指を刺して彼女に真実を突き付ける。
「まだ言わせんのか?才能ねーんだ。テメーはよ」
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亮は気がついて居なかった。
才能ある者が無い者にその真実を突き付けることが、どんなに残酷で酷い仕打ちなのかをー‥。
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結局、その後亮は静香にボコボコにされた。
傷と絆創膏だらけの顔で学校に出てきた亮を見て、
青田淳は「どうして度々ちょっかい出すの」と言って溜息を吐く。
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亮は、全部”静香の為”だと声を荒げて主張した。自分なりに彼女を正しい方向に導いてやろうとしているのに、
姉は自分を苛立たせ、遂にはピアノまで壊したんだと。
「一体いつまで”血沸く青春”を地で行ってんだ」と往年のドラマに掛けて文句を言う亮に、
淳は冷静に言葉を返す。
「いくら静香の為でも、そう何度も傷つけるようなことを言ったらダメだよ」
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そんな淳の優等生的回答に、亮はハッと吐き捨てるように息を吐いて言い返した。
「なーに言ってんだよ!それじゃあ才能のねぇ美術するっつって、
勉強もせず遊んでんのを放っとけって?」
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淳も更に言い返す。
「静香に才能があるかどうか、お前がどうやって見極める?
お前はピアノ専門で、美術は畑違いだろ?」
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その淳の物言いに亮は焦れた。
「お前さも正しい的なこと言うけどよ、静香に才能が無いのは明らかじゃねーか」と。
それでも淳は続ける。
「美術と言っても色々あるだろ。それに自分の姉貴なんだから、
もう少し上手く話せるだろ」
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亮はその淳の言葉を受け入れ、そして皮肉を込めてこう言った。
「へ~へ~。じゃあお前がしっかり言い聞かせてくれよ。
なにとぞお諦めあそばせ~ってな!」
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二人はまるで兄弟のように会話を重ねた。問題児の姉に手を焼く弟同士の、気安い会話だ。
「アイツはお前の話だけは聞くんだからよ」「してみたよ。俺の話も別に聞かないよ」
「アイツを手に負えんのはお前だけだからな~。後でキッチリ責任取れよ?」「何言ってるんだよ」
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すると談笑している二人の元に、一人の男子生徒が話し掛けて来た。
「あの‥は‥班長」
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彼の顔を見て「あ!」と淳は小さく声を上げた。彼はたどたどしく淳に話し掛ける。
「旧館倉庫の鍵、返却して来たよ‥」
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班長である淳の仕事を、彼が請け負っていたのだった。ありがとうと礼を言う淳に、彼は頭を掻きながら首を横に振る。
「い、いいんだ‥どうせ教務室の方へ行く所だったし‥」
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するとそんな彼に、淳の隣に座る亮がヘラヘラと手を振った。
よ~ピアノ~ 「‥‥‥」
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ピアノ君は亮を無視して、再び淳に話し掛けた。
「あ、あの班長。もし他に仕事あったらまた僕が手伝うから‥」
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オドオドしながらそう口にするピアノ君を見て、亮は呆れたように口を開いた。
「ったく‥毎日”班長~班長~”‥お前は淳の追っかけか?
後でピアノ室の掃除でも一緒にしねぇ?同じピアノ科同士よぉ」
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ニヤッと笑いながらそう口にする亮の言葉に、隣に居た友人が吹き出した。
「亮、それ誰得ww 淳から援助受けてる奴が、お前に用があるわけねーだろ」
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その男子生徒が口にした言葉に、周りの学生も小さく笑いを漏らし、そしてピアノ君は図星だけに真っ青になった。
彼がピアノを続けて行けるのは青田会長のお陰であり、その息子と仲良くするようにと母から強く言われているのだった。
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亮は頬杖を付きながら「あ、そゆこと?」と言った。
ピアノ君が青田家から援助を受けているのは知っていたが、それが原因で淳にヘコヘコするとは思っていなかったのだ。
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その場で立ち尽くすピアノ君の心中などお構いなしに、彼等は会話を重ねて行く。
淳が周りの学友達に、青田家が行う援助の説明をしていた。
「いや、ただ奨学金のようなものだよ」「とにかく良きに計らうべき人間は、亮じゃなくてここに居るってわけよ」
「良きにはからうなんて‥そんな必要無いよ」 「‥‥‥」
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すると淳と友人のやり取りと、立ち尽くすピアノ君を見て亮が口を開いた。
”特別”な彼が思う、”当然”の価値観を元に、彼に対して思うところを。
「おいピアノ!お前世渡りに精を出すのもいーけど、さっきも音楽の先生に叱られてたじゃねーか。
こんなことしてるヒマがあったら、もっとピアノの練習したらどーなん?」
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青田家から援助を受けていることで、淳にヘコヘコしている彼を見かねた亮の発言だった。
すると周りの友人達は、クスクス笑いながらピアノ君の方をチラチラと見た。彼は真っ青になって立ち尽くしている。
うーわ直球すぎ。 亮~偉そうにこの野郎ww
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更に亮は続けた。「成功したいなら、そっちのがマシだと思うけど」と。
ピアノ君が固く握り締めた拳が、小さく震える‥。
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すると急にピアノ君は亮達に背を向け、そのまま走り去ってしまった。
亮と淳はその場でポカンとしながら、小さくなる後ろ姿をただ目で追うのみだ。
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ピアノ君が居なくなった後で、淳が亮に「お前って奴は‥」と息を吐いて咎めたが、
亮はまるで悪びれることなく、自分が先ほど彼に向かって言った言葉の根拠を話し始めた。
「アイツ見てっとイラつくんだよ。てかアレの演奏聞いてみたけど、
あのままじゃこれからも見込みねーぞ。オレもアイツも上手く行く方がいーじゃん。会長にも報いれるし。
‥にしても、援助してもらってるだけじゃんよ。何であんなにヘコヘコしてんだか‥。
ああいう態度取るから見くびられんだろーが、バカが」
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そう口にして舌打ちをした亮を、淳は少し厳しい口調で叱った。
「口を慎め。明るみになって良いことなんて何も無いんだから」
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自分の家が特定の生徒を援助するということー‥。それはその生徒のプライドを考えると難しいところだ。
幼い頃から援助する側の立場に置かれて来た淳には、亮の態度は間違っていると思えた。
しかし亮はニヤリと笑いながら、幾分ふざけた調子で言葉を返す。
「へ~ぇ心配までしてくれるなんてなぁ。
お前まさかオレにまで「青田淳様~班長様~」って言って欲しいわけじゃねーだろーな?」
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亮がガラでもないことを言うので、淳は顔を顰めて「それはヤダ」と言った。
亮は「まぁアイツとオレは違うからな。あのショパン好きな奴とは」と言って首を横に振ると、
淳は少し考えるように黙った後、こう口を開いた。
「でも俺もショパンの方が好きだけどな。
シューベルトはお前がシューベルト好きだから聞いてるってだけで」
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そう口にした淳に、亮は少しズッコケながら言葉を返した。「お前はシューベルトの真価が分かってねぇ!」と。
すると淳は視線を空に上げると、思い出すような表情でこう言った。
「あ、でもあれだけは良かったよ。即興の瞬間、だっけ‥」
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「NO.3?」と亮が聞き返すと、淳は頷いた。
亮は淳の方へ身を乗り出すと、ニッコリと笑ってこう言った。
「オレも好きだぜ、あれ!」
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その笑顔は、まだ少年の面影を残していた。
神童と呼ばれた彼が見せる、まだあどけないその一片‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<亮と静香>高校時代(5)ー壊れたピアノーでした。
再び高校時代の思い出編でございますね。
久しぶりの<河村姉弟>カテの記事でもあります。
しかし亮、調子乗ってるな~^^; ただでさえ高い鼻が天狗の如く伸びてますな‥。
さて亮が口にした「血沸く青春」ですが、内容は1982年を舞台にしてるらしいですが、今年リメイクされてます。
血沸く青春 動画 変身熱演映像
面白そうですね~!見てみたい‥。
さてどちらかと言えばショパンが好きな淳が、唯一シューベルトで好きな楽曲‥。
F. Schubert - Moment Musical Op.94 (D.780) No.3 in F Minor - Alfred Brendel
これですね。今でも運転中に聞いてたりするんでしょうか、先輩‥。
次回も過去編です。
<亮と静香>高校時代(6)ー嫉妬と敵意ー へ‥。
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神童と呼ばれた彼が演奏を終えると、豪雨のような音で拍手が彼に降り注ぐ。
それは天才と呼ばれた彼の”当然”だった。
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本人はボウタイを結ぶのは窮屈で嫌だと言っていたが、異国の顔立ちをした彼にそれはとても良く似合っていた。
器量も良く身長も高い彼は、ビジュアルだけでも人々の関心を誘った。
それに加えて神がかった演奏をするとなると、誰も彼を放っておかなかった。
亮は、ステージ上で拍手を浴びる自分を見て嬉しそうに手を叩く青田会長にも、
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手にしたグランプリのトロフィーは、もう何個目になるかすら分からない程だった。
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学校に出てくれば皆が亮に羨望の眼差しを送り、ピアノ野郎がジットリとした視線で睨んで来る。
これが高校時代の亮の日常だった。
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自分は大勢の中から選ばれた特別な存在であると、当然のようにそう思っていた。
高慢な態度を見せても、それが”河村亮”なら、全てが許されていたー‥。
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全ての芸術にはなぁ、この二つが無ければなんねーんだ。一つは金。そしてもう一つはー‥」
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「才能だ」
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目の前の弟がそう口にするのを、河村静香は腕組みをしたまま眺めていた。
先ほど大暴れしたせいか、まだ弟の話を聞く余裕があった。
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亮は眉を寄せた表情のまま、静香にゆっくりと近付いて行く。彼女が黙っているのを良いことに、亮は喋り続けた。
「金?金ならあるよな。オレら個人の金じゃねーけど。
じゃあ才能?オレは持ってるけど、お前は生まれ変わっても持ち得ねーなぁ」
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仏頂面の静香に、亮は更に小言を続けた。
少し方向を変えればいくらでも道があるのに、なぜお前は美術だけに執着するのかと。
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自分に合ったものを探せ、と亮は言った。彼女は美術で何の成果も得られないまま卒業も出来ず、気づけば二十歳を迎えていた。
亮は、大仰な身振りで静香に説教を続けた。才能ある自分にとって、”当然”である現実を彼女に諭す。
「オレに対してガキみてぇな嫉妬をする時間も、お前が絵を描く時間も、
お前に掛かってる金も、全部ムダ!ムダ!」
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「ムダなんだよ!」
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振り返って目にしたピアノは、見るも無残な姿になってしまっていた。無論、静香の仕業だった。
「あの牛乳もムダ、楽譜もムダ、修理費もムダ‥。人生もムダにしてーのか?」
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そう言って舌打ちをする亮に、静香は低い声で口を出した。
「いい加減にしな。あたしを馬鹿にして‥また何するか分かんないわよ‥」
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しかし亮には彼女の言い分など耳に入らなかった。”当然”の現実を味方につけ、人差し指を刺して彼女に真実を突き付ける。
「まだ言わせんのか?才能ねーんだ。テメーはよ」
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亮は気がついて居なかった。
才能ある者が無い者にその真実を突き付けることが、どんなに残酷で酷い仕打ちなのかをー‥。
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結局、その後亮は静香にボコボコにされた。
傷と絆創膏だらけの顔で学校に出てきた亮を見て、
青田淳は「どうして度々ちょっかい出すの」と言って溜息を吐く。
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亮は、全部”静香の為”だと声を荒げて主張した。自分なりに彼女を正しい方向に導いてやろうとしているのに、
姉は自分を苛立たせ、遂にはピアノまで壊したんだと。
「一体いつまで”血沸く青春”を地で行ってんだ」と往年のドラマに掛けて文句を言う亮に、
淳は冷静に言葉を返す。
「いくら静香の為でも、そう何度も傷つけるようなことを言ったらダメだよ」
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そんな淳の優等生的回答に、亮はハッと吐き捨てるように息を吐いて言い返した。
「なーに言ってんだよ!それじゃあ才能のねぇ美術するっつって、
勉強もせず遊んでんのを放っとけって?」
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淳も更に言い返す。
「静香に才能があるかどうか、お前がどうやって見極める?
お前はピアノ専門で、美術は畑違いだろ?」
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その淳の物言いに亮は焦れた。
「お前さも正しい的なこと言うけどよ、静香に才能が無いのは明らかじゃねーか」と。
それでも淳は続ける。
「美術と言っても色々あるだろ。それに自分の姉貴なんだから、
もう少し上手く話せるだろ」
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亮はその淳の言葉を受け入れ、そして皮肉を込めてこう言った。
「へ~へ~。じゃあお前がしっかり言い聞かせてくれよ。
なにとぞお諦めあそばせ~ってな!」
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二人はまるで兄弟のように会話を重ねた。問題児の姉に手を焼く弟同士の、気安い会話だ。
「アイツはお前の話だけは聞くんだからよ」「してみたよ。俺の話も別に聞かないよ」
「アイツを手に負えんのはお前だけだからな~。後でキッチリ責任取れよ?」「何言ってるんだよ」
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すると談笑している二人の元に、一人の男子生徒が話し掛けて来た。
「あの‥は‥班長」
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彼の顔を見て「あ!」と淳は小さく声を上げた。彼はたどたどしく淳に話し掛ける。
「旧館倉庫の鍵、返却して来たよ‥」
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班長である淳の仕事を、彼が請け負っていたのだった。ありがとうと礼を言う淳に、彼は頭を掻きながら首を横に振る。
「い、いいんだ‥どうせ教務室の方へ行く所だったし‥」
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するとそんな彼に、淳の隣に座る亮がヘラヘラと手を振った。
よ~ピアノ~ 「‥‥‥」
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ピアノ君は亮を無視して、再び淳に話し掛けた。
「あ、あの班長。もし他に仕事あったらまた僕が手伝うから‥」
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オドオドしながらそう口にするピアノ君を見て、亮は呆れたように口を開いた。
「ったく‥毎日”班長~班長~”‥お前は淳の追っかけか?
後でピアノ室の掃除でも一緒にしねぇ?同じピアノ科同士よぉ」
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ニヤッと笑いながらそう口にする亮の言葉に、隣に居た友人が吹き出した。
「亮、それ誰得ww 淳から援助受けてる奴が、お前に用があるわけねーだろ」
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その男子生徒が口にした言葉に、周りの学生も小さく笑いを漏らし、そしてピアノ君は図星だけに真っ青になった。
彼がピアノを続けて行けるのは青田会長のお陰であり、その息子と仲良くするようにと母から強く言われているのだった。
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亮は頬杖を付きながら「あ、そゆこと?」と言った。
ピアノ君が青田家から援助を受けているのは知っていたが、それが原因で淳にヘコヘコするとは思っていなかったのだ。
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その場で立ち尽くすピアノ君の心中などお構いなしに、彼等は会話を重ねて行く。
淳が周りの学友達に、青田家が行う援助の説明をしていた。
「いや、ただ奨学金のようなものだよ」「とにかく良きに計らうべき人間は、亮じゃなくてここに居るってわけよ」
「良きにはからうなんて‥そんな必要無いよ」 「‥‥‥」
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すると淳と友人のやり取りと、立ち尽くすピアノ君を見て亮が口を開いた。
”特別”な彼が思う、”当然”の価値観を元に、彼に対して思うところを。
「おいピアノ!お前世渡りに精を出すのもいーけど、さっきも音楽の先生に叱られてたじゃねーか。
こんなことしてるヒマがあったら、もっとピアノの練習したらどーなん?」
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青田家から援助を受けていることで、淳にヘコヘコしている彼を見かねた亮の発言だった。
すると周りの友人達は、クスクス笑いながらピアノ君の方をチラチラと見た。彼は真っ青になって立ち尽くしている。
うーわ直球すぎ。 亮~偉そうにこの野郎ww
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更に亮は続けた。「成功したいなら、そっちのがマシだと思うけど」と。
ピアノ君が固く握り締めた拳が、小さく震える‥。
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すると急にピアノ君は亮達に背を向け、そのまま走り去ってしまった。
亮と淳はその場でポカンとしながら、小さくなる後ろ姿をただ目で追うのみだ。
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ピアノ君が居なくなった後で、淳が亮に「お前って奴は‥」と息を吐いて咎めたが、
亮はまるで悪びれることなく、自分が先ほど彼に向かって言った言葉の根拠を話し始めた。
「アイツ見てっとイラつくんだよ。てかアレの演奏聞いてみたけど、
あのままじゃこれからも見込みねーぞ。オレもアイツも上手く行く方がいーじゃん。会長にも報いれるし。
‥にしても、援助してもらってるだけじゃんよ。何であんなにヘコヘコしてんだか‥。
ああいう態度取るから見くびられんだろーが、バカが」
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そう口にして舌打ちをした亮を、淳は少し厳しい口調で叱った。
「口を慎め。明るみになって良いことなんて何も無いんだから」
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自分の家が特定の生徒を援助するということー‥。それはその生徒のプライドを考えると難しいところだ。
幼い頃から援助する側の立場に置かれて来た淳には、亮の態度は間違っていると思えた。
しかし亮はニヤリと笑いながら、幾分ふざけた調子で言葉を返す。
「へ~ぇ心配までしてくれるなんてなぁ。
お前まさかオレにまで「青田淳様~班長様~」って言って欲しいわけじゃねーだろーな?」
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亮がガラでもないことを言うので、淳は顔を顰めて「それはヤダ」と言った。
亮は「まぁアイツとオレは違うからな。あのショパン好きな奴とは」と言って首を横に振ると、
淳は少し考えるように黙った後、こう口を開いた。
「でも俺もショパンの方が好きだけどな。
シューベルトはお前がシューベルト好きだから聞いてるってだけで」
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そう口にした淳に、亮は少しズッコケながら言葉を返した。「お前はシューベルトの真価が分かってねぇ!」と。
すると淳は視線を空に上げると、思い出すような表情でこう言った。
「あ、でもあれだけは良かったよ。即興の瞬間、だっけ‥」
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「NO.3?」と亮が聞き返すと、淳は頷いた。
亮は淳の方へ身を乗り出すと、ニッコリと笑ってこう言った。
「オレも好きだぜ、あれ!」
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その笑顔は、まだ少年の面影を残していた。
神童と呼ばれた彼が見せる、まだあどけないその一片‥。
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<亮と静香>高校時代(5)ー壊れたピアノーでした。
再び高校時代の思い出編でございますね。
久しぶりの<河村姉弟>カテの記事でもあります。
しかし亮、調子乗ってるな~^^; ただでさえ高い鼻が天狗の如く伸びてますな‥。
さて亮が口にした「血沸く青春」ですが、内容は1982年を舞台にしてるらしいですが、今年リメイクされてます。
血沸く青春 動画 変身熱演映像
面白そうですね~!見てみたい‥。
さてどちらかと言えばショパンが好きな淳が、唯一シューベルトで好きな楽曲‥。
F. Schubert - Moment Musical Op.94 (D.780) No.3 in F Minor - Alfred Brendel
これですね。今でも運転中に聞いてたりするんでしょうか、先輩‥。
次回も過去編です。
<亮と静香>高校時代(6)ー嫉妬と敵意ー へ‥。
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机の上に座りポケットに手を突っ込む淳の姿が衝撃的でした。ココからあの佐藤とベンチでの座り方に繋がるのでしょうか。
ttps://www.youtube.com/watch?v=a6GlNZkHi2U
このあたりの話は、インホ自身の話でもありますけど、インハとの関係性の話でもありますね。世間というもの、人間というものを、最も深く見透かしていたのは誰なのか。今になって見ればこのエピソード、いくらエラそうに説教しても決して姉を抑えることのできない弟くん、という関係の完成に向けての通過点だった、と言えそうです。
というわけで、この回でいちばん興味があるのは、「インハに世界がどう見えていたか」です。ユジョンやインホはまだ想像できますが、こちらはなかなか見通せないです…。
自国のことは意外にも良くわかんないんですからね。
実は私、ここの多くの方々が「ギャグ漫画日和」を知らないと知って、
秘かに「え?ウサミを知らない?日本人なのに?」と軽いショックでしたが、
私も人の事言えませんね・・・。
平井と横山へのあの目は「あきらかに犯人である奴を見る目」ですよ。
元ネタ分かると雪のあの目で笑えます。
http://blog.goo.ne.jp/yukkanen/e/b717bb57d72caa5dd78d9f4d3bb443eb/?img=0d7a2fa77ec6f1589fba430d22f79a28
「全部」の韓国語も.日本語の発音と似ていて、だかしかし、韓国の方が「全部」を発音すると「じぇんぶ」になってしまい、例えば東方神起などのイケメンが流暢な日本語を喋りながらも、たまに「じぇんじぇん(全然)」とか言ったりすると、それはもうたまらなく萌えるのです。
英語も堪能そうだし、非の打ち所がないという点で、亮さんより先輩に是非とも(じぇひとも)囁いて欲しい…
河村教授に言われた通り淳父が実行したペット(もしくは兄弟)療法もあながち間違ってなかったんじゃないかなぁと思いますね。
多少のジェラシーがあったとしても、淳は亮に十分心を許しているように見えます。
もちろん根っこは深いので、他人に対してはずっとクロだったかもしれません。
でも亮と静香は自分に媚びてこない唯一の友人。つまり彼らとの世界は、淳自身が等身大でいられる唯一の場所であり、多少素行に問題があろうとも、ふたりとの交流を大切に思っていたに違いないんです。。
肉親の前でも素直になることを許されなかった淳が、いつか亮と静香の前で、他の誰にも聞かせることのできない心の叫びを呟いてましたよねぇ。
そんな淳の気持ちを裏切るようなことを、亮はやっちまったんだろうな…(たぶん)。とか思うと、どうにもやるせないです。
亮がしたかもしれないあんなことやこんなことを色々想像しながら「亮のおバカ!」と心の中で呟いてるため、最近どうやら亮派じゃなさそうです私…。
オープニングからの語りにググッと掴まれました!も―、総嘗めですよ!
亮の高慢で生意気な口元と師匠の語りが美しくて・・・(T_T)♪
今の亮と淳と静香を知っている身には、切なさ?やりきれなさ?みたいな気持ちが亮の浴びた拍手と一緒に湧き上がってきました。
(以下、勝手な亮目線を含みます・・・)
俺は神童だった。豪雨のような拍手だったし誰もが俺のことを知っていた。
でもだからって今それが何になる!?
いつまでも過去の栄光に縛られてるってのは、言われなくたって、俺だって解ってんだよ!
・・・ホールの男に軽くあしらわれて、もどかしい自分に怒りがこみ上げたのかな、と思いました。
過去の栄光を褒められても、忘れられていても、どちらにせよ同じですよね・・・
ピアノを再開したって、いまさら人々の称賛は得られない。雪も振り向かない。
>「それじゃあ才能のねぇ美術するっつって、 勉強もせず遊んでんのを放っとけって?」
>「こんなことしてるヒマがあったら、もっとピアノの練習したらどーなん?成功したいなら、そっちのがマシだと思うけど」
才能がないと馬鹿にしていた静香やピアノ君に投げつけていた言葉が、今、自分自身に投げつけられている。
かつての神童がピアノに再度向き合ったけれど、自分は一体どうしたいのか。ピアノとどう付き合いたいのか・・・。
あの頃に戻って、怪我をした(させられた?)ことに関するすべてを無かったことにしたかった・・・。
けれど、すべてを無くしたら、失いたくないものまで無くなってしまう。
亮が新たに踏み出した道に、指をダメにしたこととは別の、新たな後悔・怒り・哀しみといったものが生まれたのかなと思いました。
(長々と失礼しました・・・)
私は、様々なものが師匠のこのモノローグに集約されていると思っています。
亮さんがまだ"唯一"の物を失っていなかったころ、(チョーシ乗り期も今もですが)基本的に悪意無く、的確な指摘を思うまま無意識に言葉にしてますよね。
「無駄なことは見切って新たな自分を活かす道を探すほうが有効である」という結論はあながち間違ってないと思うんですが、そう割り切れるなら人間皆苦しまず生きているわけで。
ただ、この割り切った結論を出す根底に「援助してもらっているならばそれを無駄にせず、その分野で恩を返す」という想いがあるからだと思います。
亮も静香もピアノ君も、経済的な面で返せるものはないわけだから技術で貢献することが一番の恩返しですよね。
だから、「努力もしない、自分を活かせる新しいものを見つけることもしない」静香や、「支援者に媚びる努力」に気を取られ本来努力すべきピアノを疎かにしているピアノ君にキツい言葉を浴びせる結果になっているんだと思います。(キツいというか、傷口に塩を塗り込む感じでしょうか)
"思うように出来ない"という感覚を知らないが故、他者の苦しみや葛藤という感情を理解できないし思いやることができなかった、と。
亮さんのチョーシ乗り期があるからこそ、ピアノが弾けなくなって、信じていた友人を失い、挫折、絶望、様々な感情を知った後、新しい出会いによってドン底にいたところから再生する姿は感慨深いものがあります。
そして、亮さんは今も昔もきっと"努力する人"はバカにしないし認めてるんですよね。(雪ちゃんは生真面目をおちょくられてますが)だから淳のことも支援者うんぬん抜きにして好きだったんだと思うし、それを考えるとあくまで"支援している側の人間"という立ち位置のままであった淳との温度差は悲しいもんがあるなと思います。
反省ばかりの人生です。。
すばらしゅうございます。。
ここの過去回では三人の深い結び付きを感じますね。
何があって現在のようにこじれてしまったのか‥。なんだかまだまだ話が続きそうな気がするんですが‥本当に夏が終わる頃に最終回なのだろうか‥。