更に夜は更け、賑やかだった赤山家ディナーも終わりを迎えた。
玄関先にて、淳は雪の両親に向かって頭を下げる。
「本当にごちそうさまでした」「また来てね」「運転気をつけるんだぞ」「はい。おやすみなさい」
「オレには何かないんすか?」「明日遅刻するなよ」「あーもうっ」
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雪は、淳を駐車場まで送りに出た。
「それじゃね。美味しかったよ。ごちそうさま」
「お口に合ったみたいで何よりです」
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淳は雪の頬に触れ、二人はお別れのキスをする。
ちゅっ
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照れくさくなった雪は、「へへっ」と笑いながら淳のみぞおちに肘を入れた。
ドスッ
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するとそれがクリティカルヒット‥。
お腹を抱えてうずくまる淳に、
「きゃーすいません!」と雪が慌てる‥。
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「今日は家に来てくれて、ありがとうございました」
「俺の方こそ。沢山もてなしてもらって」
「いつもしてもらってばっかりだから、おもてなし出来てよかったです」
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淳が雪の身体を引き寄せ、二人は笑い合う。
けれど雪にはひとつ、気掛かりがあった。彼から目を逸らしながら、オズオズと口を開く。
「でも‥先輩を初めて家にお招きしたのに、気分を害してないか心配で‥。
河‥のこととか‥。なんかすいません‥」
「大丈夫だよ。このくらいのこと」

わざとではないものの、雪は再び亮と淳を遭遇させてしまったことを申し訳なく思っていた。
けれど淳は笑顔で首を横に振り、彼女に優しい言葉を掛ける。
「次は俺がおもてなしするよ」
「うわ!ホント?!」

淳の提案に、雪ははしゃいだ。そうして二人は再び笑顔になる。
穏やかに笑う淳と、その笑顔を見て微笑む雪‥。
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「もう行くから、雪ちゃんは帰りなね」
「気をつけて帰って下さいね!」
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そして車は走り出した。
雪は小さくなるそれを見つめながら、口元にほんのりと笑顔の余韻を残している。
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ふと瞼の裏に、ほんの数カ月前の自分の姿が思い浮かんだ。
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誰もいない食卓で、一人で取った食事。
いつも一人が気楽だと、そう思い続けていた半年前の自分。
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ふと鼓膜の裏に、以前先輩から言われた言葉が蘇った。
君と夕食を共にすることが、こんなにも大変なことなんてな
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いつも一人が気楽だと、他人との間に壁を作って来た。
人から手を差し伸べられることなんて、想像すら出来ないで居た。
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けれど。
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差し出されたおにぎりを受け取ると、今まで一人きりだった空間は二人の空間になった。
笑い合いながら食べる深夜のおにぎり。
すべて、ここから始まった。
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負担や目的に囚われなければ、一緒に食事をするのはこんなにも簡単なことだったんだー‥。
先輩と向き合うことで教わった、人と共に生きるということ。
数々の出来事を経験して、今までとは違う価値観を受け入れ始めた頃。
そしてもう一人、雪の生き方に変化を与えてくれた人が居る。

ぶっきらぼうな、それでいて真っ直ぐな優しさで、
亮はバラバラになっていた赤山家をそっと繋いでくれた。
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家族が共に外食をするなんて、何年ぶりだっただろう。
賑やかにテーブルを囲んだ、昼下がりの焼き肉。
家族の中に、当たり前のように亮が居た。
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そして今夜。
雪の生き方を変えてくれた二人の人間が、雪を育んでくれた家族の間で笑っていた。
賑やかに囲む食卓は、今までのそれとは何もかも違っていたー‥。
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生き方を変えてくれた、二人のキーパーソン。
そんな二人のことを想いながら、雪は穏やかに微笑む。
去年はまるで考えられなかった。こんな小さな平和が、私の身に訪れるなんて‥。
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二人のお陰で、私の夕食が少しずつ変わる。
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人と共に生きるということ。
それは時に煩わしく、時に神経を使い、時に傷つけられる。
しかしそれと同時に、温かでささやかな幸福を、その生き方はもたらしてくれるのだ。
雪は帰路を辿りながら、二人のことについて考え続けていた。
でも今日は、前よりもっと二人のことが分からなくなったような気がするような‥。
和解したわけじゃないけど、仲の良かった高校時代を思い出して懐かしくなってたんじゃないかな‥?私も時々そうするように‥。
取り敢えず今日はケンカもしなかったし‥親の前だからってのもあるかもだけど‥。
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だから‥必ずしも最後まで話し合わなくったって、良いんじゃないのかな‥。
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とりあえず関係が悪化しなければ、最後まで和解を追求しなくても良いのではないかー‥。
そんなことを考えながら、雪は家路へと歩を進めた。
一方淳は、車の中で信号が青に変わるのを待っている。
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すると運転席の窓が、不意にノックされた。
コンコン

振り向くと、そこに居たのは亮だった。
ブスッとした表情で、淳のことを睨んでいる。
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淳は窓を下げると、表情を変えぬまま一言発した。
「何だよ」
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亮は親指で外を指しながら、ぶっきらぼうにこう返す。
「何だよとは何だ。ちょっと顔貸せよ」
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「‥‥‥‥」
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そして淳は車から降りた。
主人公不在でのディナーショーが、緞帳の中で続いて行く‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<二人のキーパーソン>でした。
淳と亮が雪に影響されているように、雪もまた二人に影響されて生き方が変わって来た‥
そんな物語の流れを感じる回でしたね。
そして最後、亮さん‥先輩の車、信号待ちするまで結構走ってたっぽいのに‥
どれだけ足速いの
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やはりあの腿上げ走りは相当速いんですかね‥↓
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次回は<侃々諤々(かんかんがくがく)>です。
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玄関先にて、淳は雪の両親に向かって頭を下げる。
「本当にごちそうさまでした」「また来てね」「運転気をつけるんだぞ」「はい。おやすみなさい」
「オレには何かないんすか?」「明日遅刻するなよ」「あーもうっ」
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雪は、淳を駐車場まで送りに出た。
「それじゃね。美味しかったよ。ごちそうさま」
「お口に合ったみたいで何よりです」
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淳は雪の頬に触れ、二人はお別れのキスをする。
ちゅっ
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照れくさくなった雪は、「へへっ」と笑いながら淳のみぞおちに肘を入れた。
ドスッ
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するとそれがクリティカルヒット‥。
お腹を抱えてうずくまる淳に、
「きゃーすいません!」と雪が慌てる‥。
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「今日は家に来てくれて、ありがとうございました」
「俺の方こそ。沢山もてなしてもらって」
「いつもしてもらってばっかりだから、おもてなし出来てよかったです」
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淳が雪の身体を引き寄せ、二人は笑い合う。
けれど雪にはひとつ、気掛かりがあった。彼から目を逸らしながら、オズオズと口を開く。
「でも‥先輩を初めて家にお招きしたのに、気分を害してないか心配で‥。
河‥のこととか‥。なんかすいません‥」
「大丈夫だよ。このくらいのこと」
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わざとではないものの、雪は再び亮と淳を遭遇させてしまったことを申し訳なく思っていた。
けれど淳は笑顔で首を横に振り、彼女に優しい言葉を掛ける。
「次は俺がおもてなしするよ」
「うわ!ホント?!」
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淳の提案に、雪ははしゃいだ。そうして二人は再び笑顔になる。
穏やかに笑う淳と、その笑顔を見て微笑む雪‥。
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「もう行くから、雪ちゃんは帰りなね」
「気をつけて帰って下さいね!」
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誰もいない食卓で、一人で取った食事。
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ふと鼓膜の裏に、以前先輩から言われた言葉が蘇った。
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いつも一人が気楽だと、他人との間に壁を作って来た。
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けれど。
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差し出されたおにぎりを受け取ると、今まで一人きりだった空間は二人の空間になった。
笑い合いながら食べる深夜のおにぎり。
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負担や目的に囚われなければ、一緒に食事をするのはこんなにも簡単なことだったんだー‥。
先輩と向き合うことで教わった、人と共に生きるということ。
数々の出来事を経験して、今までとは違う価値観を受け入れ始めた頃。
そしてもう一人、雪の生き方に変化を与えてくれた人が居る。
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ぶっきらぼうな、それでいて真っ直ぐな優しさで、
亮はバラバラになっていた赤山家をそっと繋いでくれた。
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家族が共に外食をするなんて、何年ぶりだっただろう。
賑やかにテーブルを囲んだ、昼下がりの焼き肉。
家族の中に、当たり前のように亮が居た。
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そして今夜。
雪の生き方を変えてくれた二人の人間が、雪を育んでくれた家族の間で笑っていた。
賑やかに囲む食卓は、今までのそれとは何もかも違っていたー‥。
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生き方を変えてくれた、二人のキーパーソン。
そんな二人のことを想いながら、雪は穏やかに微笑む。
去年はまるで考えられなかった。こんな小さな平和が、私の身に訪れるなんて‥。
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二人のお陰で、私の夕食が少しずつ変わる。
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人と共に生きるということ。
それは時に煩わしく、時に神経を使い、時に傷つけられる。
しかしそれと同時に、温かでささやかな幸福を、その生き方はもたらしてくれるのだ。
雪は帰路を辿りながら、二人のことについて考え続けていた。
でも今日は、前よりもっと二人のことが分からなくなったような気がするような‥。
和解したわけじゃないけど、仲の良かった高校時代を思い出して懐かしくなってたんじゃないかな‥?私も時々そうするように‥。
取り敢えず今日はケンカもしなかったし‥親の前だからってのもあるかもだけど‥。
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とりあえず関係が悪化しなければ、最後まで和解を追求しなくても良いのではないかー‥。
そんなことを考えながら、雪は家路へと歩を進めた。
一方淳は、車の中で信号が青に変わるのを待っている。
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すると運転席の窓が、不意にノックされた。
コンコン
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振り向くと、そこに居たのは亮だった。
ブスッとした表情で、淳のことを睨んでいる。
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淳は窓を下げると、表情を変えぬまま一言発した。
「何だよ」
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亮は親指で外を指しながら、ぶっきらぼうにこう返す。
「何だよとは何だ。ちょっと顔貸せよ」
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「‥‥‥‥」
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そして淳は車から降りた。
主人公不在でのディナーショーが、緞帳の中で続いて行く‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<二人のキーパーソン>でした。
淳と亮が雪に影響されているように、雪もまた二人に影響されて生き方が変わって来た‥
そんな物語の流れを感じる回でしたね。
そして最後、亮さん‥先輩の車、信号待ちするまで結構走ってたっぽいのに‥
どれだけ足速いの
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やはりあの腿上げ走りは相当速いんですかね‥↓
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次回は<侃々諤々(かんかんがくがく)>です。
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ゆ、雪ちゃんと先輩のイチャイチャシーンが…!起きてて良かった!!(笑)
今回も面白かったです!あっという間に読んでしまいました。
また来週かあ~待ち遠しいなあ。
今週もお疲れ様でした!
韓国語版のほう見たんですけど、さっぱりでした(笑)
読み返してて…自然体で周りに溶け込む亮さん、雪ちゃんの前でしか自然体になれない先輩。と、ゆーか自分を押し隠して一緒にいようとする先輩。雪はそれに気づいてしまうと思うんですよね。雪の涙は先に亮さんの前で見せてしまいそうな気がして1人でハラハラ妄想しています
。
なにしろ(笑)口癖でやたら言う人はいる気はしますがみんなで言い過ぎですね!単行本化叶えば、関西出身として亮さんの「ひつこい!」はそのままにして欲しいです!
また来週楽しみにしています!
まず、雪が楽しんだ食事会が青田にもそうだったとは限れませんよ。
彼には緊張する席だったかも。だってプチ相見礼ですし!
そして「このまま言い争いせず現状維持できるんじゃない?」と思ってる所がまた頭の中が花畑だとしか言えません。
これはどうしても何もなく過ごせる程の状態じゃありません。
香織の件で言い争うしかない時もあるって分かったはずじゃなかったのかな。
一線超えたからでしょうか
にきしてもおりょうさんほんと脚早いというかラブシーンも見てたんでしょうか
赤になったのがすぐだとしてしも追い掛けていただろうしそれに追いつくのも凄いけどラブシーン見せつけられて可哀想に
しかし態度悪い 皆様ほんとーにほんとーにこんなおりょうさんでよいんですか
私ウンザリしてウンザリして
子供かよって
深夜のコメ、ありがとうとございます!
今週も終わった~と思っていたらもう明日更新ですね‥(汗)なかなか勘が戻りません‥^^;
まるちゃんママさん
雪ちゃんの涙を亮さんが見ることになったら‥もうそれは本格的な三角関係の始まりになってしまいますね‥。どうなるやら‥
最近亮さん「ひつこい」言ってませんね‥懐かしいです。
CitTさん
雪ちゃんは二人の間に何があったのか知りませんからね‥(読者もだけど)。介入する塩梅が分からないのかもしれません。
何にせよ次回亮と淳がどんな話をするのか楽しみですね!
むくげさん
確かに雪ちゃんに慣れが見えますな!というかキスの時目を閉じてるのを初めて見たかも。やはり一線超え‥(以下略)
亮さんはどこまで見てたんですかね~。
それとも二人と別れた後腿上げ走りで先回りして、車が出てくるのを待ってたのか‥?