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二人を見て、肩を震わせて笑う聡美と柳は勿論、ギャラリーは皆雪と淳の方を見ていた。
その中には横山翔と柳瀬健太の姿もある。
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すると淳の姿を見つけた男子学生達が、わらわらと雪と淳の座る席へと集まり始めた。
夏休みはどうだった?何して過ごした? と皆淳に向かって話しかける。
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そんな様子を見ていた女子学生達は、ヒソヒソと内緒話を始めていた。
なぜ青田先輩は雪の隣に座るんだろう?と、皆不思議そうな顔をしてこちらを眺めている。
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雪は初めてのその感覚に戸惑っていた。
常に皆の視線が集まり、人々が集っている状態‥。雪は俯きながら心の中で呟く。
そうだった‥。先輩の周りはいつも‥
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思い返してみれば、先輩の周りにはいつも人が集っていた。
そして今はそんな彼の隣に、自分が居るのだ。
「あ、ねぇ雪ちゃん雪ちゃん!」
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青田先輩に群がる男たちを掻き分けて、先ほどの女子学生が顔を出した。
気になってることがあるんだけど、と再び雪に質問する。
「雪ちゃんと太一君が、夏休みの間イイカンジだったって本当なの?」
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突然のあまりにも荒唐無稽な話に、そこに居た一同が固まった。
いきなり名前が出た太一も、思わず振り返る。
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しかしその質問に、一番動揺したのは聡美だった。
隣に座る青田先輩の前にずいっと身を乗り出し、先輩が身を反らして場所を譲る。
「はぁ??今何て‥」 「え?何それ?いきなり何の話?!」
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雪達の反応に、質問をした女の子は戸惑った。そう聞いたんだけど‥と口ごもる。
「?どこで聞いたかは知らないけど、そんなことは‥」
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そして、そう言って説明する雪の話に被せるように、隣の彼が口を開く。
「うん、違うよ。雪ちゃんは俺と付き合ってるけど?」
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何でそんな噂が流れたんだろうね、と言って先輩は何気ない仕草でカバンの中からノートを出し始めた。
いきなりの彼の告白に、一同は虚を突かれたように沈黙する。
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気がつけば、教室中の視線が青田淳に送られていた。
隣で雪はあんぐりと口を開ける。
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先ほど質問してきた女の子が、「今なんて言いましたか」と再び淳に質問した。
慌てふためく雪の隣で、淳は微笑みを浮かべたままハッキリと真実を口にした。
「雪ちゃんは俺と付き合ってるんだ。福井とじゃなくて」
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一瞬、その堂々たる交際宣言に、教室中が固まった。
誰もが淳に視線を送る中、雪は彼の隣でダラダラと一人汗をかく。
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皆の表情が徐々に変わっていく。
耳から入った情報がシナプスを通って脳細胞に伝達された瞬間、教室中が揺れた。
ぅええええええええっ?!
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そして皆一斉に雪と淳のところに押し寄せてきた。
いつから?!マジで?!と皆興奮しきりである。
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雪はその状況にただ圧倒されていた。
掌を皆の方に向けながら、いやその‥と口ごもる。
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それに対して、淳は余裕の表情だった。
「そういうこと。それ以外はノーコメントな」と言ってニッコリと微笑んだ。
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人々は尚も二人の元に集い続ける。
一体いつから付き合い始めたのか、どうしてそうなったのか、質問は尽きることは無い。
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わいわいと騒ぐ男子学生と、そんな様子を遠巻きに見てヒソヒソと話す女子学生達。
雪はそんな予想外の展開に、心の中で涙を流した。
わ、私‥まだ心の準備が‥!
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その騒ぎの外側で、二人の男が顔を顰めてその様子を見ていた。
横山翔と柳瀬健太だ。
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横山はただ眺めているだけだったが、健太はそのまま淳の元に近付いて行った。
荒げた声で彼に詰め寄る。
「おい!それじゃあ恵ちゃんは?!」
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健太の突然の詰問に、淳はキョトンとした瞳で彼を見上げた。
「恵ちゃん?‥ああ、雪ちゃんの友達の」
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その子がどうかしたんですか、と問う淳を前にして、健太は青筋を立てた。
「お前‥!」
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健太は淳を責めかけたが、途中で口を噤んで彼らに背を向けた。
「何でもねーよ!」
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雪はいきなり小西恵の名前が健太の口から出たことに驚いていた。まだ未練があったのか、とも。
しかし思い返してみれば、雪は健太にちゃんと説明したわけではなかったのだ。
健太は自分の考えに自分で納得して去って行ったので、それきりになっていた‥。
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まだ騒がしい教室内を、横山はソロソロと目立たぬよう端の席へと移動し始めた。
しかしそんな彼の元に、怒りの形相で女子学生二人が詰め寄った。
「あんたから聞いた噂だよね?!雪ちゃんの相手、太一君じゃないじゃん!」
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そう詰問されて、横山は頭を掻きながらヘラヘラと笑った。
「いや~淳先輩と太一君を聞き間違えたような~そうじゃないような~ウハハ‥」
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その軽率な態度の横山を前にして、女の子達はプリプリと怒って行ってしまった。
一人残された横山は苛立ち、大きく舌打ちした。
それもそのはず。夏休み中雪と太一の噂を皆に吹聴して回ったのに、その地道な活動が一瞬の内に水の泡になったのだ。
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クソッと呟きながら、横山は雪と淳の方を向く。
するとその視線の先に、一つの視線が横山の方に向けられているのに気がついた。
青田淳である。
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横山は咄嗟に視線を外した。
その様子を見て、淳もゆっくりと彼に背を向ける。
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横山は全てを見透かすかのような、淳の眼差しが気に障った。
歯噛みしながら、一人小さく舌打ちする。
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新学期はそれぞれの思いを乗せてスタートした。
良い感情も悪い感情も、全ての感情を詰め込んで教室のドアが閉まる‥。
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<交際宣言>でした!
淳の交際宣言、堂々として格好いいですが、人に見られることが当たり前の彼だからこその行動ですね。
(私が彼女なら予め一言言って欲しい。←要らぬ心配すぎる)
この交際宣言は太一と雪の噂を一掃する目的が主でしょうが、淳の独占欲の強さを表したものでもある気がします。
次回は<彼の心情>です。
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はっきり言ってしまう青田淳!かっこよすぎですね!
太一のことを聞いた総美の反応も可愛い^^
というか、健太先輩まだ恵のこと引きずってたとは…(ー ー;)
恵には被害がなければいいですが…
フフフ^^ 聡美が身を乗り出したときに、目を丸くして身を反らす先輩もカワイイと思いませんか~?
いいですよね、この回‥。深く解釈しだすと先輩の悪い面が浮き彫りになってくるんですが(笑)
健太先輩、空回りすぎますよね。。彼も波乱を巻き起こして行きますよ~^^;
はるまちくまさん
こんにちは!はじめまして~^^ようこそ!
しかし日本列島今極寒ですね!”はるまちくまさん”の名前のように、早く春が来て欲しいですね。
ブログ、楽しんでいただけたようで嬉しいです♪
またコメントお待ちしています~!
聡美の身乗り出しをよける先輩の顔、私もパントマイム投票しておりました!
以上
少し上向いた先輩の喉仏を拝みたい私です。