真っ赤なマニキュアを塗った指が持っているのは、
<電算税務会計>と書かれた大きな封筒だった。
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中に入っているのはパンフレットか、テキストだろうか。
キャップを目深に被った彼女は、ブツブツと何かを口にしながら夜道を歩く。
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河村静香は険しい顔をしながら、ギリッと歯を食い縛った。
忌々しい事ばかりが起こる今の現状に、彼女は苛立っているのだった。
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クソッ、と言い捨てながら、静香は一人思う。
とにかく会長からもらった最後のチャンスなんだから‥勉強しなくちゃ
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今回はマジでやらなきゃ本当にオシマイな感じだった‥
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先日、青田会長と対面した時のことが脳裏に浮かんだ。
いつもは静香に甘い会長だが、この間はいつになく厳しい態度だった‥。
会長があたしにあんな態度取るなんて‥!ありえない!
どうせ淳のヤツがコソコソ裏工作したに違いないんだ!
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なにもかもが上手くいかない‥。そんな現状を感じ、胸の中が憤りに燃える。
クソッ‥男共はほとんど離れていったし、成果も無し‥。
ありえなくない?こんな美人を前にして!
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今まではちょっと微笑んだだけで、男達は静香の虜になった。
けれど先日訪れた資産家のJr達が集まるパーティーでは、考えられないくらいの冷遇を受けた‥。
「いくら美人でも頭空っぽじゃね‥。俺らももういい年だし」
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未だ現実は受け入れられないが、とにかく今は現状を乗り切る方法を考えることが先決だ。
とにかく‥当面は大人しくしてるべきね‥
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いいわ‥あのショボイ会社にだって行ってやるわよ。
そこで淳の弱点をきっと掴んでやるから。覚悟しとけ‥!
会社でだって隠しきれるわけない、あの狐野郎の本性‥
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完璧に見える外面とは裏腹に、ひどく内面の歪んだ淳の本性。
静香は誰よりもそれを知っていた。
見くびられたままじゃいられない
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”勘違いするな”と、目の前でピシャリと言われたあの屈辱。
静香は封筒を持った手をぐっと握り締めた。
もう一度取り戻してやる‥全部あたしの思い通りに‥
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グシャリと歪む封筒。
静香は心を燃やしながら、夜を睨んで家路を辿る。
「雪ねぇ~!」
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不意に後方で、明るく高い声がした。どこか聞き覚えのある声。
静香はチラと振り返った。
「あ!恵~!」
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その声に応える声もまた、聞き覚えがあった。
視線の先に、美術の授業で一緒だった美大生と、赤山雪の姿がある。
「蓮に会いに来たの?」「うん!」
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二人は親しげに会話をしていた。
「一緒に行こ」と恵が言い、それに雪が笑顔で応える。
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この暗い路地と違い、二人の居る道は明かりが灯って明るかった。
彼女達は静香に気づくことなく、その明るい道を笑顔で歩いて行く。
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静香はキャップを目深にかぶり直すと、早足で家路を辿って行った。
先行きの見えない暗く細い道。
どす黒く醜い感情が、胸の中を支配して行く‥。
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一方何も知らない雪と恵は、楽しそうに会話を交わしていた。
雪が恵にこんなことを質問する。
「ねぇ恵、私最近ちょっと変わったと思わない?」「えー?目の下クマがあるとか‥?最近疲れてるんでしょ?」
「いや、ちょっと大人っぽくなった‥的な?」「??」 「やっぱいいや‥」

そして二人の会話は、自然と蓮の話になった。
「蓮とはずっと話をしてるけど、まだハッキリとは道を決められてない感じ」
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姉には話さない弟の心情を、恵はそう話した。
それを聞いた雪は、恵にこう返す。
「てか恵が言えば、蓮はすぐにアメリカ戻ると思うんだけど」
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恵は考え込みながら、素直に自分の気持ちを雪に打ち明けた。
「うん‥けど自分で決めてほしいから。敢えてあたしからその話を出したくないんだ。
あたしがいなくても、自分の将来の為に戻るって言うのを待ってるから‥」

雪はそんな恵の本心を聞いて、心がじわりと温かくなる。
「どう考えても蓮にはもったいないよー!恵~~!」
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思わずギュッと恵に抱きつく雪。
子供っぽい仕草をする年上の雪と、笑顔でそれを受け取る大人っぽい恵‥。
「もー!大人っぽいのはどっちよー?」「きゃはは!」
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そして二人は、何度もじゃれ合いながら家路を辿った。
彼女達の笑い声が、夜空に響いて消えて行く‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<先>でした。
前半のダークな静香と、後半のほっこり雪&恵と‥。
今回どう考えてもピッタリな題名がなく、漠然としたタイトルになっちゃいました(^^;)
次回は<箱の中の記憶>です。
短い記事になりそうですので、明日更新に致します!
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<電算税務会計>と書かれた大きな封筒だった。
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中に入っているのはパンフレットか、テキストだろうか。
キャップを目深に被った彼女は、ブツブツと何かを口にしながら夜道を歩く。
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河村静香は険しい顔をしながら、ギリッと歯を食い縛った。
忌々しい事ばかりが起こる今の現状に、彼女は苛立っているのだった。
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クソッ、と言い捨てながら、静香は一人思う。
とにかく会長からもらった最後のチャンスなんだから‥勉強しなくちゃ
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今回はマジでやらなきゃ本当にオシマイな感じだった‥
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先日、青田会長と対面した時のことが脳裏に浮かんだ。
いつもは静香に甘い会長だが、この間はいつになく厳しい態度だった‥。
会長があたしにあんな態度取るなんて‥!ありえない!
どうせ淳のヤツがコソコソ裏工作したに違いないんだ!
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なにもかもが上手くいかない‥。そんな現状を感じ、胸の中が憤りに燃える。
クソッ‥男共はほとんど離れていったし、成果も無し‥。
ありえなくない?こんな美人を前にして!
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今まではちょっと微笑んだだけで、男達は静香の虜になった。
けれど先日訪れた資産家のJr達が集まるパーティーでは、考えられないくらいの冷遇を受けた‥。
「いくら美人でも頭空っぽじゃね‥。俺らももういい年だし」
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未だ現実は受け入れられないが、とにかく今は現状を乗り切る方法を考えることが先決だ。
とにかく‥当面は大人しくしてるべきね‥
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いいわ‥あのショボイ会社にだって行ってやるわよ。
そこで淳の弱点をきっと掴んでやるから。覚悟しとけ‥!
会社でだって隠しきれるわけない、あの狐野郎の本性‥
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完璧に見える外面とは裏腹に、ひどく内面の歪んだ淳の本性。
静香は誰よりもそれを知っていた。
見くびられたままじゃいられない
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”勘違いするな”と、目の前でピシャリと言われたあの屈辱。
静香は封筒を持った手をぐっと握り締めた。
もう一度取り戻してやる‥全部あたしの思い通りに‥
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グシャリと歪む封筒。
静香は心を燃やしながら、夜を睨んで家路を辿る。
「雪ねぇ~!」
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不意に後方で、明るく高い声がした。どこか聞き覚えのある声。
静香はチラと振り返った。
「あ!恵~!」
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その声に応える声もまた、聞き覚えがあった。
視線の先に、美術の授業で一緒だった美大生と、赤山雪の姿がある。
「蓮に会いに来たの?」「うん!」
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二人は親しげに会話をしていた。
「一緒に行こ」と恵が言い、それに雪が笑顔で応える。
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この暗い路地と違い、二人の居る道は明かりが灯って明るかった。
彼女達は静香に気づくことなく、その明るい道を笑顔で歩いて行く。
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静香はキャップを目深にかぶり直すと、早足で家路を辿って行った。
先行きの見えない暗く細い道。
どす黒く醜い感情が、胸の中を支配して行く‥。
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一方何も知らない雪と恵は、楽しそうに会話を交わしていた。
雪が恵にこんなことを質問する。
「ねぇ恵、私最近ちょっと変わったと思わない?」「えー?目の下クマがあるとか‥?最近疲れてるんでしょ?」
「いや、ちょっと大人っぽくなった‥的な?」「??」 「やっぱいいや‥」
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そして二人の会話は、自然と蓮の話になった。
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姉には話さない弟の心情を、恵はそう話した。
それを聞いた雪は、恵にこう返す。
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恵は考え込みながら、素直に自分の気持ちを雪に打ち明けた。
「うん‥けど自分で決めてほしいから。敢えてあたしからその話を出したくないんだ。
あたしがいなくても、自分の将来の為に戻るって言うのを待ってるから‥」
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雪はそんな恵の本心を聞いて、心がじわりと温かくなる。
「どう考えても蓮にはもったいないよー!恵~~!」
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思わずギュッと恵に抱きつく雪。
子供っぽい仕草をする年上の雪と、笑顔でそれを受け取る大人っぽい恵‥。
「もー!大人っぽいのはどっちよー?」「きゃはは!」
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そして二人は、何度もじゃれ合いながら家路を辿った。
彼女達の笑い声が、夜空に響いて消えて行く‥。
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<先>でした。
前半のダークな静香と、後半のほっこり雪&恵と‥。
今回どう考えてもピッタリな題名がなく、漠然としたタイトルになっちゃいました(^^;)
次回は<箱の中の記憶>です。
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育児大変だと思いますがご自愛下さいね。
静香さん、やっぱり淳君を恨むんですね。
自業自得なのに。この前のパーティーって婚活パーティーかなと思いました。だから留学や学歴が話題になって・・・って事かと。
静香さんも考え方が横山みたい。逆恨みすごすぎる(ToT)
淳君がかわいそう(はい、私は淳派)
ノーコメゼロ運動、参加してみました( U+2022U+300ωU+2022U+301 )/
もうすぐ学園祭の記事ですね!
楽しみにしています!
汚してスイマセン・・・
静香は本当プライド高いですよね‥
きっと強がることで弱い自分を守っているんでしょうけど‥。
向いた矛先が淳、そして雪に向かっていくんだと思うと胃が痛くなりそうですよね‥(@@;)
↑この絵文字は化けない!