しんぶん赤旗 2014年8月1日(金)
2014 とくほう・特報
米政権のイスラエル擁護 背景は
パレスチナ自治区ガザ地区へのイスラエルによる軍事攻撃は本格的な開始から3週間以上を経過しました。イスラエル側はイスラム武装抵抗組織ハマスの攻撃を阻止するためだと主張していますが、パレスチナ人の死者が1300人を超え、その大半は民間人という深刻な事態となっています。こうしたなか、いま改めて注目すべきは、極端なイスラエル擁護の立場に立つ米政府の姿勢です。その背景には何があるのでしょうか。
(ワシントン=島田峰隆、国際委員会=菅原啓)
国連安保理は7月28日、イスラエルとパレスチナ双方に対して、無条件の人道目的の即時停戦を求める議長声明を発表しました。声明は、双方がいったん戦闘を中止し、本格的な停戦のための条件を話し合うとするエジプトが先に提案した停戦案に基づいて、「持続的で全面的に尊重された停戦に応じる」よう呼びかけています。
罪のない子どもたちや非武装の市民の犠牲者がさらに拡大することを阻止するために一刻も早い停戦が求められています。
ところがイスラエル側は、ガザへの攻撃を、ハマスによるロケット弾攻撃を阻止する「自衛」行為だと説明。米国も犠牲者急増に懸念を示しながらも、イスラエルのガザ攻撃を「自衛」行為として擁護してきました。
ハマスの無差別攻撃は戦闘員・民間人を区別しない点で重大な国際法違反であり決して容認できません。しかし、イスラエルは病院や学校にも容赦なく攻撃をしており、これは、「自衛」の域を著しく逸脱する過剰な反応です。
親イスラエル・ロビー団体
米政界に強力な影響
“三つの国益”で中東地域を重視
米国は、三つの国益((1)石油・天然ガスの安定供給の確保、(2)敵対勢力による地域支配の阻止、(3)地域での大量破壊兵器拡散と反テロ攻撃の防止)を持つとして中東地域を重視してきました。その中で、イスラエルを特別扱いしてきた背景には、米国内で活動する親イスラエル・ロビー団体(政策に影響を与えるために議員に働きかける団体)の存在が指摘されています。
二大政党に資金
特に「米国イスラエル広報委員会」(AIPAC)は全米50州に10万人以上の会員を持つ国内最大の親イスラエル・ロビー団体で、議員や議会スタッフらと会合するなど、影響を与えています。ワシントンにある政治資金監視団体「センター・フォー・レスポンシブ・ポリティックス」によると、AIPACは2013年には約300万ドルをロビー活動に使いました。
12年の米議会選挙に立候補した現職議員で見ると、下院の242人(民主126、共和116)、上院の45人(民主27、共和17、無所属1)が、さまざまな親イスラエル・ロビー団体から総額で約1000万ドルの資金を受け取りました。非現職を含む全候補者で見ると約1500万ドルに上ります。
今年もすでに民主、共和両党の下院議員の208人、上院議員の41人が資金を受け取っています。11月の中間選挙が近づく中、議会がイスラエルに批判的な対応を取れない事情が見て取れます。
オバマ米大統領は、再選された12年に約80万ドルを親イスラエル・ロビー団体から受け取りました。これは議会も含めた全候補者の中で共和党の大統領候補だったロムニー氏に次いで多い額でした。
オバマ発言後退
オバマ氏は09年6月にカイロで行った演説で、イスラエルによる入植活動継続を批判して即時停止を要求。10年3月の首脳会談でも中止を求めましたが、ネタニヤフ首相は拒否したと報じられています。
しかし、11年の国連総会ではパレスチナの国連加盟申請に反対を表明。12年3月のAIPACの会合では「国連でこれだけ明確にイスラエル支持を述べた米大統領はいない」とイスラエル寄りの姿勢を鮮明にしました。オバマ氏の発言が後退していった背景にも、米国政治に対する親イスラエル・ロビー団体の強力な影響がうかがえます。
膨大な軍事援助
こうしたもとで、米国務省はイスラエルを「中東における米国の最も信頼できるパートナー国」と位置づけています。米国は1985年からは毎年約30億ドルという膨大な額の軍事経済援助をイスラエルに行っています。今年7月22日発表の米議会調査局の報告書によると、2008年以降はほとんどが軍事援助で、今では米国の全世界に向けた対外軍事融資(FMF)の約半分はイスラエル向けです。
いまイスラエルは圧倒的な軍事力でガザに侵攻していますが、「「米国による軍事援助がイスラエル軍を世界で最も技術的に高性能な軍隊へと変貌させた」(同報告書)のです。
米国は1980年代に入ってからは、81年に「戦略協力合意」を締結、84年には空と海での共同軍事演習を開始、87年にはイスラエルを「北大西洋条約機構(NATO)以外の主要同盟国」に指定するなど、強い同盟関係をつくりました。
2001年の米同時多発テロ後は、対テロで協力を強めているほか、12年7月にはオバマ氏が安保協力を強化する法案に署名し、イスラエルのミサイル防衛システムに7000万ドルを追加拠出すると表明しました。
このほかに学校や医療機関の強化、住宅不足の解消、他国からイスラエルへの新規移住者受け入れの資金なども支援しています。
米上下両院はイスラエルの自衛権を支持し、その能力を強めるよう米政権に求める決議をしばしば採択しています。今回のガザ侵攻についても上下両院が支持を決議しました。
国内世論にも変化
イスラエルの行動「正当化できない」 青年層の51%
このようなイスラエルへの異常な肩入れの背景として、米社会で大きな影響力をもつキリスト教右派組織の活動も指摘されています。こうした組織はキリストの再臨にはユダヤ人の国がパレスチナ全体に広がることが必要と信じています。宗教的な面からも米国の政治と社会に親イスラエルの傾向がつくり出されています。
また、イスラエル・ロビーはメディアや学会からイスラエルに批判的な言説を排除する活動もすすめています。こうしたことから、世論調査ではつねに米国民の多数がイスラエルの行動を支持する状況がつくられてきました。
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しかし、強硬な軍事手段に固執するイスラエルの態度によって、米国内の世論も変化しています。ギャラップ社の最新の調査によると、30歳未満の青年層では51%が今回のイスラエルの行動について「正当化できない」と回答しています。
世界各国、米国ではイスラエルのガザ攻撃に抗議の声が沸き起こっています。オバマ米政権に求められているのは、こうした良識ある市民の声に耳を傾け、イスラエルへの異常な肩入れ政策をやめ、戦闘行為の即時中止、中東和平交渉の再開に向けて積極的な役割を果たすことです。
英紙フィナンシャル・タイムズ7月28日付に掲載されたエドワード・ルース氏の論評は、AIPACなどの強硬派団体の「独占状況が失われつつある」と分析。「オバマ氏が真に中立的な仲介者の役割を果たす用意がないなら、交渉は常に失敗するだろう」と警告しています。