夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『ポストマン』

2008年10月14日 | 映画(は行)
『ポストマン』
監督:今井和久
出演:長嶋一茂,北乃きい,原沙知絵,犬塚弘,谷啓他

占いなどはまったく信じませんが、
阪神については例外的に縁起を担ぐほうです。
この靴下を履いているときに勝ったから今日も履こうとか、
このパンツを穿いているときに負けたからやめておこうとか、
TVの電源を切るときに10チャンネルのまま切らないようにするとか。(^^;

『ミスター・ルーキー』(2002)の公開当時、
思いっきり阪神ネタなんですから、もちろん気になったものの、
なんで一茂主演なんじゃ~!と、意固地に観ませんでした。
今に至るも、まだ観ていません。

今年、こんな結果に終わったのは、
巨人に連敗している途中に本作を観て、
不覚にも涙してしまったのが遠因のような気が。

千葉県、房総半島の町。
2年前に妻を病気で亡くした郵便局員、龍兵は、
中学3年生の娘、あゆみと、小学3年生の息子、鉄兵と暮らしている。

龍兵は、いまどき珍しいアナログ人間。
単車には乗らず、自転車一辺倒。携帯も持たない。
何年もの間、担当地区の一軒一軒を丁寧に、なおかつ定刻に回るため、
彼の通過時間を時計代わりにしている住民もいるほどだ。

そんな仕事熱心な龍兵のことを、あゆみは理解できない。
母の死に目にすらあえなかった龍兵を許せずにいる。
母の想い出が詰まったこの家を出たくて、
全寮制の高校への進学を希望しているが、龍兵には言えないまま。
一方の鉄兵はといえば、けなげな限り。
天国の母に宛てた手紙をこっそり書いては投函している。

あゆみは、自分の希望を龍兵に伝えてくれるように、
担任の臨時教員である奈桜子に頼むが、
この仕事を腰掛け程度にしか考えていない奈桜子には
鬱陶しい以外の何ものでもない話。

ある日、ポストに花火が投げ込まれる事件があり、
投函されていた郵便物の差出人に、郵便局員が謝罪して回る。
差出人のひとりだった奈桜子のもとへ、偶然龍兵がやって来る。

……てな感じで、かなりゆるりゆるりと物語は進みます。
一茂の演技はお世辞にも上手とは言えませんが、
悔しいことに好青年ぶりがハマっていて、泣かせます。
美しい自然の中で、脇役陣も人の善さそうな役者が固めて、
いい話を詰め込んだら、そりゃ泣かずには居られますまい。
嗚呼、不覚。

ってね、縁起を担がずに一茂の映画を観たせいにしてるけど、
頑なに観なかった2002年かて、4位だったのよ。
関係ないっちゅうねん。(--;

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『つぐない』

2008年10月09日 | 映画(た行)
『つぐない』(原題:Atonement)
監督:ジョー・ライト
出演:キーラ・ナイトレイ,ジェームズ・マカヴォイ,
   シアーシャ・ローナン,ロモーラ・ガライ,ヴァネッサ・レッドグレーヴ他

昨日の今日で「償い」なんて言葉を聞くと、
どないして償ってくれるねん、某球団!と叫びたくなってしまうのですが、
これだからこそ、あの球団よ。(T_T)

気を取り直して本作。
とっても辛気くさいです。でも、ものすごく好き。

1935年のイングランド。官僚の屋敷。
文才に長けた13歳の娘ブライオニーは、
休暇で帰省する兄とその友人を歓待するため、
戯曲を書き上げたばかり。

ふと、窓の外のある光景を目にする。
それは、ずぶ濡れになった下着姿の姉セシーリアと、
使用人の息子ロビーが口論しているような様子。

数時間後、ブライオニーは、ロビーに呼び止められる。
セシーリアに手紙を渡してほしいと言うロビー。
こっそり開封したブライオニーは、卑猥な言葉の並ぶその手紙に驚く。
それは、文面を考えあぐねていたロビーが戯れにタイピングしたもので、
実際に渡そうとしていたものとは違ったのだ。
ロビーが気づいたときにはすでに遅し、手紙はセシーリアのもとへ。

ところが、その文面がセシーリアの胸を打つ。
非礼を詫びるつもりで訪れたロビーをセシーリアは抱き寄せる。
図書室で絡み合うふたりを目撃してしまうブライオニー。

その夜、ブライオニーの従姉が何者かによって強姦される。
現場から走り去る人物を見たブライオニーは、犯人はロビーだと証言。
それがふたりの仲を永遠に裂くことになるとは夢にも思わずに。

ブライオニーがロビーに淡い恋心を抱いていることは、
さまざまな描写からわかります。
セシーリアとロビーを見たとき、
そこに生まれる、自分でも気づかぬぐらいの小さな嫉妬心。

自分の嘘がもたらした残酷さに気づいた彼女は、
生涯かけて罪を償おうとします。
彼女の償いかたは、自己満足に過ぎないかもしれません。
でも、老年のブライオニーの表情に、私は満足さを感じませんでした。
どう償おうと、決して償いにはならないことを、
彼女自身、本当はよくわかっていたのだと思います。

それぞれの世代のブライオニーを演じる女優がお見事。
相変わらず胸ペッタンコのキーラも美しい。

図書室での一瞬がすべてだったふたり。
BGM代わりのタイピングの音とともに、心に残る悲恋です。
これを思えば、阪神の悲劇なんて、なんちゅうこたぁないっ!

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『ぜんぶ、フィデルのせい』

2008年10月06日 | 映画(さ行)
『ぜんぶ、フィデルのせい』(原題:La Fautea Fidel)
監督:ジュリー・ガヴラス
出演:ニナ・ケルヴェル,ジュリー・ドパルデュー,
   ステファノ・アコルシ,バンジャマン・フイエ他

イタリア/フランスの作品。
社会情勢を取り入れるためには、
1970年という設定にするよりほかなかったのでしょうが、
主人公の少女に「昔っぽさ」はなく、「今」の可愛らしさです。

1970年のパリ。アンナは9歳の女の子。
名門のカトリック系小学校に通い、成績も優秀。
スペインの上流階級の出身である父は弁護士、母は人気雑誌の記者。
やんちゃな弟はたまに鬱陶しいけれど、姉弟仲良し。

ところが、ある日を境に、この完璧な生活が一変。
きっかけは、スペインで反政府運動をおこなっていた伯父が亡くなったこと。
ほかに身寄りのない伯母を父が招いたのだ。

伯母の話を聞いて、両親はいきなり共産主義に目覚める。
子どものことはそっちのけで、正義感に燃えて走りまわる両親のことを、
キューバ人の乳母は、革命家フィデル・カストロのせいだと言う。
アンナは思う。「それって誰だか知らないけれど、
私の生活が変わっちゃったのは、全部、フィデルのせいなのね」。

政治に詳しくないと理解しにくい背景ですが、
それがメインテーマではありません。
アンナの成長ぶりを見てください。

とにかくアンナがめっちゃキュート。
冒頭、上流階級の祖父母の家で、
果物の食べ方を年下の子どもたちに指導するシーンや、
学校でいい点を取ったときに友だちに自慢するシーンなど、
ちょっと違えばクソ生意気な子どもにしか見えなさそうですが、
そのスレスレのところで留まっていて、本当に愛らしい。

大人の勝手な思いに振り回され、
狭い家にお引っ越し、乳母もころころ替わります。
最初はそれをまったく受け容れられないアンナが、
自分なりに物事を考え、納得できるまで大人に挑み続けます。
そして、前を向いて考えるということが、
必ず自分の幸せに繋がると、アンナは信じています。

年齢を重ねるにつれて、考えることはできても、
自分の考えはなかなか変えられなくなります。
アンナより弟のほうがさらに若いせいか(笑)、
弟の環境変化への適応ぶりはお見事で微笑ましい。

父親の手を握るシーンは、
『リトル・ミス・サンシャイン』(2006)の肩を抱くシーンに匹敵する素晴らしさ。
上からのアングルで撮られたラストシーンも秀逸です。
きっと、ギューッと抱きしめたくなります。

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『地上5センチの恋心』

2008年10月01日 | 映画(た行)
『地上5センチの恋心』(原題:Odette Toulemonde)
監督:エリック=エマニュエル・シュミット
出演:カトリーヌ・フロ,アルベール・デュポンテル,
   ファブリス・ミュルジア,ニナ・ドレック他

フランス/ベルギーの作品。
原題は主人公の名前である“Odette Toulemonde”で、
よくもこんな邦題を考えついたものだと思いますが、
恋をすると、ふんわり5センチ浮いた気分に。
そんな気持ちを上手く表しています。

オデットは10年前に夫を亡くした、50代の主婦。
昼は百貨店の化粧品売場でパート勤め、
夜は舞台衣裳の羽根飾りを作る内職をしている。
心優しき息子のルディはゲイの美容師、
いつもふてくされている娘のスー=エレンはフリーター。
子どもたちが連れて来る恋人のことは、ときには気に入らないが、
それでも来る者は拒まず、一緒に食卓を囲んでいる。
ささやかながら、楽しく幸せな毎日。

人気の恋愛小説作家バルタザールのサイン会の日。
彼の大ファンであるオデットは、会場へと急ぐ。
しかし、緊張のあまり、サインしてもらうための自分の名前さえ言えない。
情けなさに鼻を垂らして泣くオデットに、
ルディはファンレターを書くことを勧める。

バルタザールは金にも女にも不自由ない暮らしをしているが、
ライバル作家のオラフから新刊を酷評されて以来、人気が急降下。
しかも、そのオラフが妻の浮気相手だと知り、自殺を図る。
一命は取り留めたものの、傷心のバルタザールは家出。
行くあてもなく街をさまよっているときに、
胸ポケットに入れたままになっていたファンレターに気づく。
バルタザールは差出人のオデットを訪ね、不思議な同居生活が始まる。

名言だと思った友人の言葉に、
「無邪気と無神経は紙一重やから」というものがあります。
同性から見て、天真爛漫で可愛いと思っていた後輩が
なぜか異性には人気イマイチで、男友達に理由を尋ねたところ、
上記の言葉をボソッと。なるほどなぁと思いました。

このオデットは、自分が無知なのを知っていますが、
無神経ではありません。
無知ゆえと思われていたオデットのお気楽ぶりも、
話が進むにつれて、そうではないことがわかり、
いつのまにか、こんな女性と一緒なら、
どんなことも幸せに感じられるのではと思うようになります。

ルディの台詞も密かに説得力あり。
執筆が本業の作家につたない文面の手紙を送ることを躊躇うオデットに、
「ハゲの美容師もいるよ」。

幸せは、足もとに転がっている。

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