ままちゃんのアメリカ

結婚42年目のAZ生まれと東京生まれの空の巣夫婦の思い出/アメリカ事情と家族や社会について。

否定の境地

2019-09-03 | 人間性

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 検診の日。67歳になる医師と話していた時、彼の携帯電話が鳴った。「お、**医師からだ、ちょっと失礼。」としばし退室。すぐに戻り、開口一番に、「いやあ、55歳の妻が妊娠しまして。妻を診てくれている医師からの電話だったんですよ。アイスランドから卵子を取り寄せて。。。」と私が聞きもしなかったことをしゃべり始めた。「今日で着床して11日目なんですが、生まれるのは来年の5月頃になるでしょうか。」と言う。「え?奥様は55歳でご懐妊?。。。無事母子とも健康で安全にお産ができますように、祈っています。」と私。「今の世の中は、お金さえ払えばなんでも可能なことが多いんですよ、特に医学に関しては。」と医師。 そうね、もしお金があれば、ね。


この医師は、実に愉快な人物で、三代前がヨーロッパからアメリカに渡ってきた時、苗字をアングロサクソン風な物に代えたと言うユダヤ系の英国・スウエーデン人である。ユダヤ人種は、知能指数が極めて高く、その平均値はあらゆる人種中で第一位で、ちなみに日本を含む東アジア人は、第二位である。彼は、一流医大の出身で、30代の長女はスタンフォード大を出てPhDを取得したが、医学ではないので、医師いわく、「スタンフォード大学が娘をダメにした」そうで、彼女は環境科学などを専門とする科学者である。もう一人の娘は、スタンフォード大学を出てから、イェール大学医学部に進んだ超エリートコースな皮膚科志望の将来の医師と結婚し、二児をもうけた、と言う。


この医師には、常日頃決して物理的な年齢にこだわらず、今何歳に感じるかで生きるべきだ、という持論がある。私は大概適当に生きているが、それでも寄る年波が物理的存在年齢を悟らせる時がある。そんな時つい不平がはじけるのは、普通の人間だからである。ところがこの医師は、「そんなのはナンセンスだ!」とおっしゃる。「僕を見てごらんなさい、67歳になる男が、来年父親になるんですよ? 僕は決して、ああ、自分は67歳なんだ、とは自覚しないようにしていて、毎週土曜日は、ブギーボードで遊ぶんですよ。」とのたまわる。


「年齢じゃないんですよ、物理的な年齢のことなど考えていたら、何もできない。僕なんて、もう一生否定の境地にいるんです。そしてそれだから毎日元気が出るんですよ。ちなみに貴女は精神年齢でご自分を何歳だと思いますか?」「21歳ですね。」ときっぱり言う私。鯖の顔がちらつく。


「そう、それでいいんです。21歳の精神を持って物事に当たれば、進んでいけるんですよ。物理的な年齢を始終気にしていると、何もできなくなっちゃいます。貴女はまだまだお若い。21歳なんですから。とにかく一生否定の境地にいることです。」と医師。


「8人の孫を持つ私も、許されるのですね、21歳で。」と心細げな私。


「そうです、8人の孫と一緒に遊ぶのは楽しいでしょう? 物理的年齢を否定することですよ、21歳で行くのです!死ぬまで生きるのだから、いっそ精神年齢でずっと行きましょう! 21歳のどこが悪いのですか? どこも悪くないでしょう? はい、否定の境地、忘れないでください。」と満面笑顔の67歳の若い父親医師が言う。


考えてみれば、病や体の故障は、年齢に関係なくある。老化は起こる。けれどそこに意識の重みをかけて一体なにが徳になろうか? 年寄の冷や水とは一体全体、何のことだろう? 一定の年を経て、さあ、断捨離だ、と決めてそのゴールに追いつかないと、そこでストレスを生む。そうだった、人生は短いのだった。たかがこれだけ生きてきて、年だ、とやりたいことをあきらめては、チコちゃんに叱られるし、ジュリア・チャイルドやカーネル・サンダースに笑われるではないか。ニコライ・テスラは若くして逝ったが、彼はきっと「生きているのに、なにもしないの?」と私を諫めるかもしれない(まさか)。95歳半で庵を構え、芭蕉のごとく生きるのを目標にしようか。


と、夫に話すと、夫は、「あ、そうか、今日はあの医師の検診だったんだね?」と言う。さすがベターハーフ、私の挙動や考えが誰に影響されているかをすぐに見抜く。「そうなのよ! あの医師の言う通りだわ! そういう風に積極的に年齢を否定して生きていかなきゃね。あ、寝る前に私の肩にサロンパス貼ってくれる?」 そう、”21歳”でも肩凝りはあるのだ。




 Credit: CC0 Public Domain





コメント (4)
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