一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『1秒先の彼』…山下敦弘監督作品(脚本・宮藤官九郎)で清原果耶を楽しむ…

2023年08月06日 | 映画


本作『1秒先の彼』(2023年7月7日公開)を見たいと思った理由は、二つ。

①清原果耶の主演作(岡田将生とのW主演)であるから。
➁山下敦弘監督作品であるから。


清原果耶は私の大好きな女優で、


映画での出演作はほとんど見ており、
『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(2016年)
『3月のライオン 前編 / 後編』(2017年)
『ちはやふる -結び-』(2018年)
『愛唄 -約束のナクヒト-』(2019年)
『デイアンドナイト』(2019年)
『いちごの唄』(2019年)
『宇宙でいちばんあかるい屋根』(2020年)主演
『花束みたいな恋をした』(2021年)
『まともじゃないのは君も一緒』(2021年)主演
『砕け散るところを見せてあげる』(2021年)
『夏への扉-キミのいる未来へ-』(2021年)
『護られなかった者たちへ』(2021年)
『線は、僕を描く』(2022年)

についてはレビューも書いている。

TVドラマでも、主演作を中心に、
「透明なゆりかご」(2018年7月20日 - 9月21日、NHK総合)主演
「レ・ミゼラブル 終わりなき旅路」(2019年1月6日、フジテレビ)
「螢草 菜々の剣」(2020年1月25日~3月21日、NHK総合)主演
「マンゴーの樹の下で〜ルソン島、戦火の約束〜」(2019年8月8日、NHK総合)主演
「俺の話は長い」(2019年10月12日~12月14日、日本テレビ)
「おかえりモネ」(2021年5月17日~10月29日)主演
「ファイトソング」(2022年1月11日~3月15日、TBS)主演
「霊媒探偵・城塚翡翠」(2022年10月16日~12月25日)主演

などで楽しませてもらったし、録画保存もしている。

NHKドラマ「透明なゆりかご」については、このブログで、
……清原果耶の演技力と存在感に圧倒される……
とのサブタイトルを付してレビューも書き、
清原果耶のことを絶賛した。(コチラを参照)

かように好きな清原果耶なので、
新作の主演映画『1秒先の彼』もぜひ見たいと思った。


山下敦弘監督作品には、


『リアリズムの宿』(2003年)で出合い、
『リンダ リンダ リンダ』(2005年)で感動し、
『天然コケッコー』(2007年)で大好きになった。

以来、
『マイ・バック・ページ』(2011年)
『もらとりあむタマ子』(2013年)
『味園ユニバース』(2015年)
『オーバー・フェンス』(2016年)
『ぼくのおじさん』(2016年)
『ハード・コア』(2018年)

などで楽しませもらい、レビューも書いてきたのだが、
一作一作異なった題材、テイストの作品を創り出し、
山下敦弘監督にはどうしても『天然コケッコー』的な映画を求めてしまう私を、
(いい意味で)裏切り続けている。(笑)
そんな山下敦弘監督の新作『1秒先の彼』には、
(またまた懲りずに)どうしても過剰な期待をしてしまう。


調べてみると、2020年製作の台湾映画『1秒先の彼女』という映画のリメイクらしく、
脚本を宮藤官九郎が担当しているらしい。


私は、台湾映画『1秒先の彼女』(2021年6月25日・日本公開)は見ておらず、
それだけが不安であったが、
リメイク版の山下敦弘監督作品『1秒先の彼』がどんな作品に仕上がっているのか、
確かめるべく映画館(109シネマズ佐賀)に足を運んだのだった。



ハジメ(岡田将生)は京都の生まれ。


いつも人よりワンテンポ早く、50m走ではフライング。
記念写真を撮るといつもシャッターチャンスを逃してしまい、
小学校、中学校、高校の卒業アルバムの写真はことごとく目を閉じている。




現在、ハジメは、長屋で、
妹の舞(片山友希)と、その彼氏のミツル(しみけん)と3人で暮らしている。


ハジメの職場は京都市内にある中賀茂郵便局。
彼は高校を卒業して12年間、郵便の配達員だった。
ついたあだ名が、『ワイルド・スピード』。
度重なる信号無視とスピード違反で免許停止を食らい、それからは窓口業務だ。
ハジメと同じ窓口に座るのは新人局員のエミリ(松本妃代)と小沢(伊勢志摩)。




いつもふたりに「見た目は100点なのに中身が残念」と言われ、ふてくされる日々。


レイカ(清原果耶)も京都の生まれ。


日本海に面した漁師町の伊根町で育った。
いつも人よりワンテンポ遅く、50m走では笛が鳴ってもなかなか走りださない。
現在、彼女は大学7回生の25歳。
アルバイトをいくつも掛け持ちし、学費を払いながらの貧乏生活だ。
写真部の部室に住み込み、ひとりぼっちで夜食をとりながら、ラジオを聴いている。
ある日、
急停車したバスに追突した高校生を看護するハジメの姿をみて、既視感をおぼえたレイカ。
郵便局でハジメの窓口にいき、胸の名札『皇』の文字を見つめる。


街中で路上ミュージシャン・桜子(福室莉音)の歌声に惹かれて恋に落ちるハジメ。


早速、花火大会デートの約束をするも、目覚めるとなぜか翌日に。
“大切な1日”が消えてしまっていた……
秘密を握るのは、毎日郵便局にやってくるレイカらしい。
ハジメは街中の写真店で、
目を見開いている見覚えのない自分の写真を偶然見つけるが……



岡田将生と清原果耶のW主演と謳っておきながら清原果耶がなかなか登場しない。
〈主演の一人がこんなにも登場しない映画があるだろうか……〉
と思いながら見ていたら、
30分、いや40分を過ぎた頃だろうか、やっと清原果耶が登場する。
それまではハジメ(岡田将生)の視点で描かれていた物語が、
今度はレイカ(清原果耶)の視点で描かれ始めるのだ。
〈今年(2023年)6月に見た『怪物』と同じ「羅生門スタイル」の変形版か……〉
と、妙に納得。
そう気づいてからは、この映画を(そして清原果耶を)存分に楽しむことができた。
1秒早いハジメと、1秒遅いレイカの、二人の異なる視点から描かれる、
「消えた一日」をめぐるタイムラグ(時差)ラブストーリーなのだが、
まあ、冷静に考えれば、
〈そんなバカな……〉
と思えるストーリーなので、
この設定そのものを受け入れられない人にとっては面白くない映画であるのかもしれない。
だが、過去に、
『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』(2014年9月27日公開)
『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(2016年12月17日公開)
などを楽しんだ人(私を含む)にとっては、
なんとも愛おしく楽しめる映画であった。
特にラストが秀逸で、最後の最後で至福のひとときが訪れる。
映画の魔法を感じさせてくれた映画であった。
パンフレットも買い、(好きな映画だった場合はパンフレットを買うようにしている)
とても爽やかな気持ちで映画館を出ることができた。


レイカ(長宗我部麗華)を演じた清原果耶。


不思議な設定の映画で、その登場人物の一人なので、
これまであまり見たことのない清原果耶を見ることができて良かったし、
(極私的に)嬉しかった。
それは、オリジナルである台湾映画『1秒先の彼女』が素晴らしいというのもあるだろうし、
宮藤官九郎の脚本が良かった所為かもしれない。

私は脚本を読む時、自分の役のことを先に考えるタイプなんです。だからまずレイカちゃんが健気で、ひたむきで、なんていい子なんだろうなって。このレイカちゃんの魅力をどう表現できるだろうって考えたのが最初です。そのあと読み進めたら、ハジメくんとレイカちゃんの対比も面白いですし、出てくるキャラクターがみんな個性的だったので、ポップであたたかい映画ができるだろうなと思いました。宮藤さんの脚本は初めてで、どこが宮藤さんらしさなのかはっきり言えないのがもどかしいですけど、台詞回しや会話の繋げ方が魅力的で、現場でのテンポ感や間の取り方が大事になってくるところが宮藤さんらしさかなって今は理解しています。(パンフレットのインタビューより)

と、清原果耶は語っていたが、
レイカは人よりワンテンポ遅く、
いろんな思いを伝えられないという設定の女性なのだが、
清原果耶が演じることで、単なるのろまでドジな女の子という感じではなく、
純粋な思いを秘めた、健気で、ひたむきな女の子になっていたように思う。



ハジメ(皇一)を演じた岡田将生。


私は男優にはあまり興味がないので、(コラコラ)
これまで岡田将生という役者を特に意識したことはないのだが、
(なぜか)私が傑作と思う映画には必ず出演しているという印象があり、
これまで、
『天然コケッコー』(2007年)
『告白』(2010年)
『悪人』(2010年)
『アントキノイノチ』(2011年)
『四十九日のレシピ』(2013年)
『何者』(2016年)
『伊藤くん A to E』(2018年)
『星の子』(2020年)
『さんかく窓の外側は夜』(2021年)
『ドライブ・マイ・カー』(2021年)

などで彼を見てきたし、論じてきた。
山下敦弘監督作品は、『天然コケッコー』以来16年ぶりの出演で、
そういう意味でも『天然コケッコー』を特別に愛している私にとっては懐かしかったし、
嬉しかった。
本作『1秒先の彼』のハジメは特異なキャラクターで、
小さい頃から何をするにも人よりワンテンポ早く、筋金入りのせっかち。
一方で彼は、思ったことを心に留めておくことができず、すぐ口に出してしまうかわりに、
裏表がないので、憎めない青年でもある。
そんな愛すべき青年を、岡田将生を軽やかに楽し気に演じていて素晴らしかった。


清原果耶とは二度目の共演ということで、(一度目はNHK朝ドラ「なつぞら」の兄妹役)
相性も悪くなく、
ハジメとレイカはタイムラグの端と端にいるので、対話するようなシーンはほとんどないにもかかわらず、お互いの良さを引き出している演技が秀逸で、それがラストシーンにも引き継がれていると思った。



その他、
ストリートミュージシャンで、ハジメが恋に落ち、デートに誘う相手の桜子を演じた福室莉音、


バス運転手のミクルベを演じた荒川良々、


ハジメの妹で、ギャルの舞を演じた片山友希(最初、彼女だとは気づかなかった)などが、
個性的な演技で作品を盛り上げていた。


写真店の店主と、ハジメが聴いているラジオ番組のDJの、一人二役を演じた笑福亭笑瓶(2023年2月22日死去・享年66歳)は、本作が遺作となった。





購入したパンフレットで、原作である台湾映画『1秒先の彼女』のDVDが期間限定のスペシャル・プライスで販売されていることを知った。(通常価格4180円を1650円で販売)
〈1650円なら映画館で見る映画1本分の値段じゃん〉
と、早速Amazonで購入。(Amazonではさらに安く1345円で購入できた)
鑑賞すると、びっくりするような傑作で、数回見てしまった。


タイトルが示すように、日本のリメイク版のハジメ(岡田将生)は、
原作『1秒先の彼女』の方は女性で、
そのシャオチーを演じたリー・ペイユーが殊の外素晴らしく、魅入らされてしまった。


台湾映画『1秒先の彼女』があまりに素晴らしかったので、
山下敦弘監督と、脚本を担当した宮藤官九郎が、男女を逆にしてリメイクしたのが、
少し理解できたような気がした。
〈あのままリメイクしてもオリジナルには敵わない……〉
と思ったに違いない。
映像も美しく、それだけでも見る価値のある映画だと思った。




シャオチーを演じたリー・ペイユーがあまりに素晴らしかったので、


もし、男女を入れ替えずにオリジナルと同じようにリメイクしたならば、
日本版では誰がシャオチーの役をやっていただろう……と考えた。


黒木華、岸井ゆきの、伊藤沙莉あたりだろうか。
若い頃の江口のりこ、安藤サクラとか……
そんな想像も楽しめる好い映画であった。
映画『1秒先の彼』のユーザーレビューを読むと、
原作である台湾映画『1秒先の彼女』を見ていない人の方が多いようであるが、
映画『1秒先の彼』に感動した人も、そうでなかった人も、
オリジナルの『1秒先の彼女』もぜひ見てもらいたいと思った。

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