水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

☆時代劇シナリオ・影車・第十回☆贋小判(4)

2009年02月04日 00時00分00秒 | #小説
      影車      水本爽涼          
     第十回 贋小判 (4)

   お蔦  「今の所(とこ)、十手の声が掛からないが、手筈になりそうな話
        だね」
   又吉  「…。(影車の口調になり)また、忙しくなるってか?」
   お蔦  「そうなるかも…、って話さ」
   又吉  「修羅場は嫌なんだがな」
   お蔦  「仕方ないさ、そうなりゃ…」
   又吉  「だな…」
    お蔦、その後は無言で蕎麦を食べ続ける。又吉も、自ら話そうとはしな
    い。屋台が静寂に包まれる。
11. 両替商・和田屋の店(内)・夜
    徒目付(かちめつけ)組頭の山根頼母が密かに来訪している。和田屋
    甚兵衛は堤(ひさげ)を持ち、酒を山根の盃へ注ぐ。接待の豪華な馳走
    の膳が出され、二人は談笑している。
   山根  「そちも、かなりの悪よ。小判を密かに改鋳しておるとは…。私腹
        を肥やし、この日の本を牛耳る所存と見える…」
    そう云いながら嗤って盃を干す山根。
   甚兵衛「めっそうもないことで…。山根様の足元にも及びませぬ」
   山根  「こ奴、云いおるわ(嗤って)。それにつけ、瀬崎の音松を手足で
        使うとは、なかなか考えたものよのう」
   甚兵衛「瀬崎の親分は、何かにつけて顔が広いと聞きましたもので…」
   山根  「今、街道筋で売り出し中の親分だそうだな。そのうち一度、顔を
        出すように申せ」
   甚兵衛「畏(かしこ)まって御座居ます。そのように伝えておきまする」
    と云いながら、傍らの袱紗(二十五両包み金四ヶ)百両を山根の前へ
    スゥーっと差し出す。
   山根 「おう! いつもながら、済まぬのう…」
    盃を干しながら、見ずにもう片方の手で引き寄せる山根。当然だ、と
    云わんばかりの何げない所作である。 
12. 瀬崎の音松一家(内)・夜
    行灯の灯りが揺れる。不気味に浮かぶ苦みばしった音松の顔。情婦
    に酌をさせ、杯をグイッ! と、一気に飲み干す音松。
   情婦  「お前さんも阿漕が過ぎるんじゃないのかえ?」
   音松  「ふん! 馬鹿を云うねぇ(銚子で注がれた酒を飲みつつ)。人様
        を、あやめてる訳じゃねえんだ。ほんの少しばかり、金の巡り
        を良くして貰ってるだけよ」
    と、嘯(うそぶ)く音松。杯を置き、情婦の胸元へ手を滑り込ませ、
   音松  「そのうち、お前(めえ)にも、お大尽の暮らしを、させてやるか
        らな」 
    と、耳元へ囁く。情婦、微かに笑う。
   情婦  「早くしておくれよ。老いぼれるまでは待てないからね」
   音松  「分かった、分かった…」
    情婦を押し倒す音松。情婦、音松の、いいなりになる。
  


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