水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

☆時代劇シナリオ・影車・第十回☆贋小判(9)

2009年02月09日 00時00分00秒 | #小説
      影車      水本爽涼          
     第十回 贋小判 (9)

     仙二郎、真剣な眼差しで小判を見つめ、口に入れると歯で齧る。
    仙二郎「いや、これは本物だ。ですよね? 宮部さん」
    宮部  「(覗き込んで)はい、間違いありません、本物です。なにせ、さ
         きほど奉行所で、贋物と本物を見比べていたんですから…」
    お里  「そうですって!(奥の方を向いて)」
     声を高める、お里。小笑いしながら椅子へと座る宮部。仙二郎も小
     判を、お里に返すと、席へ着く。
    お里  「何にします?」
    仙二郎「俺は、きつねだ」
    宮部  「私は、しっぽく」
    お里  「きつね、しっぽく一丁!」
     奥の調理場から、「はいよっ!」と、親父の声が返る。お里、奥へと
     消える。
    宮部  「あの娘(こ)、すっかり慣れましたねぇ…(奥の調理場を見な
         がら微笑んで)」
    仙二郎「はい…。お里坊は、いい娘(こ)ですよ。私が、もう少し若けり
         ゃ、放っときませんが…」
    宮部  「まだ若いじゃありませんか」
     と、笑顔で、からかう宮部。
    仙二郎「いや、もう駄目でしょう、この歳じゃ…(苦笑して)」
    宮部  「瓢箪から駒、ってこともありますから」
    仙二郎「はは…、富籤(くじ)より当たりが悪いですな」
     二人、大笑いする。そこへ奥から、お里が、うどん鉢を盆に乗せ、運
     んでくる。
    お里  「何か、いいことでもあったんですか? 偉く楽しそう…」
     と、鉢を仙二郎と宮部の前へ置きながら云う。仙二郎と宮部、互い
     の顔を見合わせ、思わず笑い転げる。
    仙二郎「お里坊、そういうこった」
     と云って、仙二郎、ふたたび笑う。お里がキョトンとして奥へ去った
     後、箸筒の箸を取り、
    宮部  「生活苦で、また一家心中があったようです。今月に入って、
         これで五件ですか? 物価が、どんどん上がってますから
         ねえ」
    仙二郎「贋金が出回ってから、もう随分と経つじゃないですか。お上
         は何をやってたんでしょうねえ。今時分になって私らの尻
         を叩いて騒いでるんですから、後手ですよ。まあ、この事件
         に限ったことじゃありませんが!(カメラ目線で云う)」
    宮部  「そのとおり…」
     うどんを啜りながら、ただ頷く宮部。仙二郎も、それ以後は黙り、
     うどんを啜り続ける。


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