残月剣 -秘抄- 水本爽涼
《旅立ち》第五回
「さあ、稽古じゃ稽古じゃ! 朝餉の前にのう。早(はよ)う竹刀を持って参れ」
それ以上は事に触れず、源五郎は話題を変えて付け加えた。
暫くして行われた朝稽古は、いつもより熾烈であった。しかし、源五郎の打ち掛かる竹刀を、ことごとく受け返す常松の剣の冴えは、いつもと変わりはなかった。
「手強くなったな、常松。もう、儂(わし)以上かも知れんぞ」
稽古を終えた時、汗を薄汚れた手拭で拭いながら、源五郎は微笑を浮かべ、穏やかに語った。
「いいえ、私の腕など…」
「いやいや、可也のものじゃ。機会があらば、父上に見て戴こう」
常松は、軽く笑ってその言葉を受け流したが、云われたこと自体は悪い気がしなかった。
三日後、御用休みの父が、その稽古を見分した。
「源五郎からは、予(かね)てより聞き及んでおるが、確かに秀でておるな、そなたの剣捌きは…。いや、この儂もな、前々から思うには思おておったのじゃ…」
稽古を見終えた父は、厳かな語り癖の中にも優しさを込めて、常松に云った。