水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

☆時代劇シナリオ・影車・第十回☆贋小判(7)

2009年02月07日 00時00分00秒 | #小説
      影車      水本爽涼          
     第十回 贋小判 (7)

    お蔦  「あいよっ!」
     言うが早いか、お蔦の姿は既に消えている。寝姿のまま動かず、瞼だ
     け開け、
    仙二郎「放ってもおけめえ…。孰(いず)れは手筈だな」
     と云って、ふたたび瞼を閉ざす仙二郎。遠くで犬の遠吠えS.E。
     S.E=犬が鳴くウォーワンワン! といった高く響く声。
19. 人里離れた山中の坑・入口前(外)・昼
     瀬崎の音松一家の子分が百姓数人を坑内へと脅しながら押して入
     る。薄暗い坑道の入口。その前に広がる雑木林から、
    お蔦  「音松の手下を追ったら、とんだ所(とこ)に来ちまったよ。なるほ
         どね、ここで作ってんのかい…」
     坑道の入口より少し離れた木陰から、辺りを窺う、お蔦。入口を、時折
     り、音松の子分達が出入りしている。お蔦、それを見届け、瞬時に消え
     去る。
20. 人里離れた山中の坑(内)・昼
     鋳造の作業をする職人や百姓達。山根頼母の家臣二名が作業の監
     視をしている。手燭台が所々に立てられてはいるが、坑内の明るさ
     は、それほどでもない。入口付近で、ふらふらと外へ荷(千両箱)を運
     ぶ百姓風の男をムチ打つ家臣の一人(家臣A)

    家臣A「こらぁ! もたもたするな!!」
     倒れて荷を落とす男。起き上がり、ふたたび荷を持って、よろよろと
     倒れそうに担ぐ。虚ろな表情で衰弱しきっている。坑外へ出て、漸く荷
     車へ荷を降ろす男。
21. 人里離れた山中の坑・入口前(外)・昼
     その光景を雑木林から遠目に見ながら、
    お蔦  「ひどいこと、しやがる…(怒った表情で)」
22. 河堀(橋の上)・夕暮れ時
     柳、屋形船あり。お蔦と仙二郎が、いつもの橋の上で話している。
    仙二郎「そうか…、山中で改鋳してやがるとはなあ。随分と手が込んで
         るぜ。直接の殺しは今の所(とこ)やっちゃいめえが、このまま手
         放しで放し飼い、とはいかねえやな」
    お蔦  「手筈かい?」
    仙二郎「まあ、待て。…数日、猶予をくれ。だが、皆には、それとなく云っと
         いてくれ」
    お蔦  「二度手間だよ(不満げに)」
    仙二郎「…それもそうだな。伝えるのは、手筈の前でいいか」
    お蔦  「そいじゃ三日後、寝入った頃に叩き起こしに行くよ」
    仙二郎「はは…寝ちゃいねえや。閂(かんぬき)は開けておく。だが、四ツ
         は遅(おせ)いな。出来んなら五ツにしてくれるか」
    お蔦  「細かい注文だねぇ。…分かった、そうするよ」
     その言葉を最後に、お蔦、辺りを窺うと瞽女(ごぜ)に戻って歩き出す。
     仙二郎も反対方向へと歩き去る。
  


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