第十回 贋小判 (5)
13. 茶屋(狭い路地)・夕暮れ時
門付けをしている、お蔦。それを少し離れた物蔭から遠目に眺める
仙二郎。客が二階の障子の隙間から、銭を入れた包み紙を下へ落
とす。お蔦、それを拾うと、二階を仰ぎ見て、
お蔦 「また、ご贔屓(ひいき)に!」
と、声を返して、その場を去ろうとする。二階の障子戸が閉ざされた
のを確認して、仙二郎、足早やに、お蔦へと近づく。
仙二郎「ちょいと、手間とらせるが…」
仙二郎、ひと声かけると、お蔦を尻目に通り過ぎる。お蔦、無言で辺
りを窺った後、仙二郎が歩き去った方向へと歩き始める。
14. 河堀(橋の上)・夕暮れ時
柳、屋形船あり。いつもの橋の上(定位置)で語り合う仙二郎と、お蔦。
お蔦 「今日は、どんな用なんだい?」
仙二郎「なあに…。用というほどのこたぁねえんだがな。お前(めえ)の
身軽さで、ちょいと調べて貰いてぇことがあってな…」
お蔦 「そろそろ、お呼びが掛かると思ってたよ。贋金の一件だろ?」
仙二郎「はは…(小笑いして)流石は、お蔦姐(ねえ)さん。…図星だ」
お蔦 「根が深そうだから、三日ほどって訳にゃいかないよ(手の平
を仙二郎の前へと差し出し)」
仙二郎「(お蔦の手の平へ一朱銀を二枚乗せ)分かってる…。何ぞ
分かりゃ、長屋へ舞い降りてくれ。宵、五ツから四ツがいいな」
お蔦 「雨漏りさせるのも何だからさ、閂(かんぬき)開けといとくれ
(二朱の銭を懐へと納め)」
仙二郎「(小笑いして)小さな親切って所(とこ)か? 分かった、そうし
よう」
お蔦 「盗っ人に盗られる物もなさそうだからね(小笑いして)」
仙二郎「お前(めえ)の悪い所(とこ)は、いつも、ひと言、多いとこだ」
二人、顔を見合わせて大笑いするが、すぐに沈黙し、目と目で別れ
を云う。仙二郎が背を向けた後、お蔦、瞽女(ごぜ)へと戻り、反対方
向へと杖をついて歩き去る。
15. 江戸の街通り(一筋の広い道)・昼
瓦版売の男が瓦版を売っている。宮部、仙二郎の二人、昼食にしよ
うと、うどん屋に近づいて、それに気づく。
瓦版売「さあ、買った買った!! 驚いちゃいけないよ。今、巷を騒がす贋
金騒動。遂に首を括(くく)る者が出たってんだから、人ごと
じゃあない。詳しいこたぁ買って読んどくれ、ってんだ! さあさ
あ!!」
瓦版売の威勢のよい掛け声に、通行人達、周囲を取り巻いて、我
先にと買う。
瓦版売「押さずによぉ~、まだまだあるからね。四文だよ四文!!」
その熱気が仙二郎や宮部にも伝わる。