第十回 贋小判 (12)
32. 人里離れた山道・昼[テーマ曲のオケ1 イン]
所々に雪が残る、昼なお暗き山道を、篭二台が坑道へと急ぐ。各々
の篭には、音松の子分頭、二人が乗っている。暫く事も無げに篭か
き四人が、「エッホ、エッホ!」と走っていると、俄かに頭上の木立
が揺れ、中から、お蔦が舞い下りる。お蔦、有無を云わさず、居合い
刀を抜き、篭を突き刺すS.E。篭かき二人、慌てふためいて篭を下
ろして絶叫。もと来た道を逃げ去る。もう一台の篭かき二人も、同
様に篭を下ろし、逃げ去る。お蔦が居合い刀を篭から抜くと、子分
Aが篭から崩れ落ち、外へ倒れて絶命。もう一台の篭からバタつ
いて降りた子分B、
子分B「貴様ー! 何者(なにもん)でぇ!!」
と、刀を抜き、お蔦に斬りかかる。お蔦、ふわりと上へ舞い跳ぶと、子
分Bの頚動脈(首)を下りざまに居合い斬る。子分Bの首筋から吹き
散る血しぶき。子分B、激しくもがいて崩れ落ちる。お蔦、ニヤリと笑
い、瞬時に跳び去る。木陰に隠れていた伝助、別場所に置いた荷車
に二人を乗せると、顰(しか)めっ面(つら)をして、お蔦の消えた方向
を一瞬、見た後、荷車で走り出す。S.E=豚や牛の肉塊をナイフ等
で切り裂く音(ブシュ、ブシュー)。
[テーマ曲のオケ1 オフ]
33. 瀬崎の音松一家(内)広間・夜
多くの子分を従え、酒を酌み交わす音松。かなり酩酊している。
音松 「ウィッ!…、二人は帰(けえ)ったか?」
子分C「へえ…。どこか寄り道をなすってるんでしょう」
音松 「そうか…。まあ、いい。明日にするか…。今日は、もう寝る」
と、ふらつきながら席を立ち、部屋を出る音松。
子分達「御苦労さんでした!」
音松の後ろ姿に声をかける子分一同。従って立とうとする子分を、
「いいっ!」と、止めて去る音松。
34. 瀬崎の音松一家(内)小部屋・夜
音松が刀を刀掛けに置き、布団へ入ろうとした、その時、
[テーマ曲のオケ2 イン]
音松の真上の天井板が音も啼くスゥーっと開き、両腕と鉄製の大
丼鉢、音松めがけて垂直に落下。(鐘の音S.E)スッポリ被った大丼
鉢。呻く音松。S.E=鐘楼で撞く鐘の音(グォ~~ン)。音松、頭に鉢
を被った状態で暫し氷結するが、その後、ゆったりと、前のめりに
崩れ落ちる。
[テーマ曲のオケ2 オフ]