第十回 贋小判 (14)
41. 徒目付組頭・山根頼母の屋敷(内)寝所・夜
[テーマ曲のオケ3 イン]
山根が布団で寝息をたて熟睡している。音もなく襖が開き、仙二郎
が枕元へ立つ。そして、ゆっくりと脇差を抜くと、跪(ひざまず)いて左
手で口を封じる。息苦しさに目覚める山根。馬乗りになる仙二郎。
仙二郎「世の悪党め。手前(てめえ)のような奴ぁ、いらねえんだ。地
獄へ落ちろぃ!」
と吐き捨て、脇差を胸(心臓)へ突き刺し、抉(えぐ)る(ブシュブシュー
っという鈍い音)。抗う山根、次第に力が萎えて絶命する。仙二郎、
息があるかを確認した後、脇差を胸より抜き、刃を山根の白衣で拭
うと鞘へ納める。そして、静かに立つと、襖より出ようとする。入れ替
わりに、伝助が部屋へと入る。
仙二郎「頼んだぜ…」
と、ひと声残し、仙二郎、消え去る。
[テーマ曲のオケ3 オフ]
42. 江戸の街通り(一筋の広い道)・朝
場面、フェード・イン。無惨に晒された山根達五人の死骸と立て札。
それを取り囲んで騒ぐ多くの町人達。出勤途中の仙二郎と宮部も、
その中にいる。
宮部 「なんでも、昨日、奉行所に付け文があったそうですよ」
仙二郎「へぇ~、誰からですか?」
宮部 「いえね、匿名だったらしいんですけどね。恐らく、影車からだ
ろうって、もっからの噂です」
仙二郎「それで、なんて書いてあったんです?」
宮部 「贋金作りをしている場所の図面だけで、他には何も書かれ
てなかったそうですよ」
仙二郎「ほぉー、図面だけねえ…」
宮部 「流石! と云ったらいいのか悪いのか…、どうなんでしょ?」
仙二郎「さあ、どうなんですかねえ」
宮部 「こんなこと云っちゃなんですけど、お上以上にやるんじゃな
いでしょうか? 影車は」
仙二郎「宮部さん、場所がらを考えて下さい。周りを…(小声で)」
仙二郎、周囲の町人を指さし、宮部を窘(たしな)める。宮部、頷い
て黙る。二人、群衆から離れ、奉行所へ向け歩き始める。