水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 靫蔓(うつぼかずら) (第七十二回)

2012年07月06日 00時00分00秒 | #小説

  靫蔓(うつぼかずら)       水本爽涼                                     
 
   第七十二回 
直助は一瞬、ギクリ! と身を引き締めた。またもや例の無言電話だろうか…と、先入観が受話器を取る手を重くする。それでも、かろうじて恐怖にうち勝ち、恐る恐る受話器を耳に宛がう。
「あのう…すいません。坪倉さんでらっしゃいますか?」
「えっ? はい、そうですが…」
「わたくし、昼間にお目にかかった和田倉商事の山本でございます」
「ああ…、はい!」
「実は、お帰りになったあと、私なりに人事簿など残っておる書類を調べてみた訳なんですけれども…」
 耳に伝わる山本の声は、語尾を濁した。
「はあ…それで、どうでしたでしょ?」
「それがですね。本当に不思議でして。…私にも分からないのです」
「? …と、いいますと?」
「ですから、坪倉さんが言ってらした溝上早智子という人物は確かに我が社の総務部に勤めておる社員なんです」


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