靫蔓(うつぼかずら) 水本爽涼
第九十一回
「そりゃそうでしょ、ここで溝上さんが働いているなら…」
「いえ、ところが彼女は存在しない。自動振込を停止しているのに給料が引き落とされ、砂に吸い込まれる水のように消えている。それなのに、経理上の間違いがないんです。なんと不可解なことか…。私は今、仕事どころじゃない気分なんです」
「…お気の毒と慰めていいのかどうか分かりませんが…」
「ややこしい話ですなあ」
それまで傍観していた勢一つぁんが、ひと声かけ、割って入った。それまでは気にも留めなかった辺りの静穏が、直助には不気味に思えてきた。
「で、今も経理のほうでは過去に遡って洗い出しをしておるんですが…」
「とにかく、そのほうはお願いします。それで、溝上早智子さんの情報とかは?」
「それも現在、追跡調査をさせております」
「今のところは、お手上げでっか?」
「えっ? ああ、まあ…」