水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 靫蔓(うつぼかずら) (第七十五回)

2012年07月09日 00時00分00秒 | #小説

  靫蔓(うつぼかずら)       水本爽涼                                     
 
   第七十五回 
「今度は朝の続きかいな?」
 勢一つぁんも朝方の話を想い出したのか、訊ねた。商店会のメンバーが五人ほどで話し合った直助の話は、そういえば尻切れ蜻蛉(とんぼ)になっていたのだ。
「いやいや、今度はもっと深刻なんやわ。今晩はここの庇(ひさし)でも借って寝させてもらお、思てきたんや」
「なんやいな、それは…。どないかしたんか? っちゅうか…なんぞ起きたんかいな?」
 勢一つぁんの笑顔は、いつの間にか真剣な眼差しへと変化している。
「もう、あかんわ…」
 直助は顔を両手で覆うと、吐き捨てるように呟いた。
「ええ? そない深刻なんかいな」
「家で寝られんのやがな」
「寝られんて…でよんのか?」
「そやがな…。訳が分からんさかい、どないにもならんのや。今晩、土間でもよいから泊めてんか」
「泊めんのは容易(たやす)いこっちゃけど…、ほんなことかいな」


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