靫蔓(うつぼかずら) 水本爽涼
第七十五回
「今度は朝の続きかいな?」
勢一つぁんも朝方の話を想い出したのか、訊ねた。商店会のメンバーが五人ほどで話し合った直助の話は、そういえば尻切れ蜻蛉(とんぼ)になっていたのだ。
「いやいや、今度はもっと深刻なんやわ。今晩はここの庇(ひさし)でも借って寝させてもらお、思てきたんや」
「なんやいな、それは…。どないかしたんか? っちゅうか…なんぞ起きたんかいな?」
勢一つぁんの笑顔は、いつの間にか真剣な眼差しへと変化している。
「もう、あかんわ…」
直助は顔を両手で覆うと、吐き捨てるように呟いた。
「ええ? そない深刻なんかいな」
「家で寝られんのやがな」
「寝られんて…でよんのか?」
「そやがな…。訳が分からんさかい、どないにもならんのや。今晩、土間でもよいから泊めてんか」
「泊めんのは容易(たやす)いこっちゃけど…、ほんなことかいな」