靫蔓(うつぼかずら) 水本爽涼
第八十三回
「会社の人も分からんよって、調べとる最中なんやが…」
「何かの手違いかも知れんわなあ…」
「そういうこともあり得るけど、どっちにしても二十年以上前の話を調べとんにゃさかい、難儀なこっちゃ」
「…そら、そうやわなあ。わいが手伝う言うても、余(あんま)り役に立たんか?」
「んっ? いや、そんなこともないぃ思うけどな…。要はその女性が今、どうしてんのかを確認できたら済むことなんや」
「なるほどなあ~」
つまらないところで勢一つぁんは感心した。
「そんなことより、怖うて毎晩、家(うち)で寝られんのが困るしなあ」
「なんやったら、わし今晩から泊まりにいったるでえ。幽霊も二人なら、ちょっとは遠慮しよるやろ」
そう言って勢一つぁんは陽気にハッハハ…と笑い飛ばした。いつの間にか彼の箸と口は見事に連動して活躍している。この素晴らしい両刀遣いに直助は恐れ入った。
「いや、ほんまにな…。できたら頼むわ」
笑って返したが、実のところ直助は真剣なのだ。なんだか一人になると、また出そうな気がした。