靫蔓(うつぼかずら) 水本爽涼
第七十四回
「なんやら不気味ですなあ」
「まあ…今日のところはこの辺で。何かまた分かりましたら、お電話を差し上げますので…。だいたいこのお時間で、よろしいでしょうか?」
「はい、ご足労かけますが、なにぶん、よろしくお願いいたします」
電話を切った瞬間、また妙な恐怖心が頭をもたげる。電灯のスイッチもそのままにして、直助の足は隣の八百勢へ向かっていた。
表戸は閉まっているが、裏口へ回ると、灯りが見えた。直助はフゥ~っと安息を漏らした。
「直さんやないか…、どないかしたんか?」
突然現れた直助に意表を突かれた格好の勢一つぁんが、ポツンと言った。
「いや、そんな訳でもないんやけどな…」
敏江さんが台所の片づけを終えて居間の方へ戻った。
「や~! 直さんやないの」
「あっ、朝方はどうも…」と直助は礼を繰り出す。それに対し、「いえ~、構いだてもせんと…」と、敏江さんは笑顔で返した。