靫蔓(うつぼかずら) 水本爽涼
第八十七回
「いや、それがですね。昨夜の電話の後、もう少し調べてみたんですがね…」
「何か分かりましたか」
「実は…私も気が狂いそうなんです。今朝も出勤はしたんですが、このまま働いているのも怖いくらいなんですよ」
受話器の声が少し震えているように直助には感じられた。十時を少し、回っている。
「どうされたんですか?」
「いや、ちょっと周りに人がいるもので…、よかったら、昼休みにお会いできれば…」
「わたしは構いませんが…」
「それじゃそういうことで…。昼前に会社のロビーでお待ち下さい」
「分かりました…」
怪訝に思いながらも、直助は受話器を下ろした。よほどのことがあったのだろう…と推察できる。直助は、とりあえず、勢一つぁんの戻るのを待つことにした。
小一時間の時が流れた。畑仕事から帰ってきた勢一つぁんの一輪車には、温室栽培の野菜類が山盛りされている。新鮮さはこの上ないが、これから敏江さんが店頭に並べても、客足がない以上、恐らく七割程度がそのまま萎(しな)びるのは目に見えて明らかだった。