水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 靫蔓(うつぼかずら) (第九十回)

2012年07月24日 00時00分00秒 | #小説

  靫蔓(うつぼかずら)       水本爽涼                                     
 
   第九十回
「…倉田です」と、小声で細々と遠慮ぎみな勢一つぁんである。
「山本と申します…。ところで坪倉さん、昨日の電話の後、私なりに調べてみたんです。…そこまではお話ししましたよね? …で、ますます不可解なことが分かってきまして、私ね、今も実は怖ろしい気分なんですよ」
「…と、いいますと?」
「彼女に給料が振り込まれているという異常な事態なんです。存在していない社員に給料が振り込まれる。…これはもう、怖ろしいという以上に経理上、社内の大きな問題でもありますしね…」
「そんな馬鹿な!!」
 直助はやや声を強めて言い、二人は思わず笑った。
「いや、笑いごとじゃないんです、ほんとに…」
 山本の顔色には出鱈目ではない真剣さが漂っている。二人は真顔に戻った。
「今朝、さっそく経理の者と調べ直したんですがね…」
 固唾(かたず)を飲む二人は、山本に食い入るような眼差しを向けた。
「毎月支払われてるんですよ…。それに、なにより妙なことには、計算額がきっちりと合っている」


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