靫蔓(うつぼかずら) 水本爽涼
第六十八回
「いやな、今日も昼間、その会社へ行ってきたんやけんどな。枕元に立った幽霊の顔が、どっかで見憶えが、あんねん。いつぞや、と言(ゆ)うても二十年以上前の話なんやけどな…。店で本を買うた女の客に、よう似とった…
「ええっ! それで?」
「ああ…、そいで、会社でその女客のことを調べてもらおう思てな…」
「なんか、分かったんかいな」
「いや、それが、けったいなことに、その女客、まだここの支社で働いてることになっとんねん。その人事の…山本とか言(ゆ)うたかいなあ~、その人が言(ゆ)うのには、そんな女性社員は今、働いてない…と、まあそういうこっちゃ」
「それは、ちょっと怪(おか)しいんやないか」
「そやねん。そら、そうなんやけど、その山本とゆうのは人事の人間でな。…社員の現状は分かったると、自信ありげでな…」
直助はそう言って、昼間にもらった名刺を胸ポケットから取り出した。