水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 靫蔓(うつぼかずら) (第九十二回)

2012年07月26日 00時00分00秒 | #小説

  靫蔓(うつぼかずら)       水本爽涼                                     
 
   第九十二回
 勢一つぁんの斬り込みに、山本も、しどろもどろである。
「科学万能時代の今でも、そんなことがありまんのかいなあ…」
 山本が頷き、直助も首を縦に振らざるを得なかった。
「直さん、埒があかんみたいやし、そっちの気(け)はないんやけど、一緒に寝させてもらうわ。あんたも怖いやろさかいな…」
「ああ、そうしてもらうと助かるわ、頼んまっさ」
 ひとまず直助は安心した。
 その後、二人は社員食堂へ案内され、軽食を取りコーヒーを飲むと山本と別れた。別れ際(ぎわ)に山本が呟いた言葉が帰り道で直助の脳裡に甦った。
━ 最先端の精密機器を商う我が社で、こんなことが起こるとは… ━
 直助には山本の呟きの意味が十分、分かった。文明の最先端技術を商う和田倉商事で、こんな不可解極まりない非科学的な出来事が起ころうとは…という当然の感情なのだ。しかし直助には、そんなことはどうでもよかった。早智子の現在の状況さえ判明すれば、すべてが解決するように思えた。


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