靫蔓(うつぼかずら) 水本爽涼
第九十二回
勢一つぁんの斬り込みに、山本も、しどろもどろである。
「科学万能時代の今でも、そんなことがありまんのかいなあ…」
山本が頷き、直助も首を縦に振らざるを得なかった。
「直さん、埒があかんみたいやし、そっちの気(け)はないんやけど、一緒に寝させてもらうわ。あんたも怖いやろさかいな…」
「ああ、そうしてもらうと助かるわ、頼んまっさ」
ひとまず直助は安心した。
その後、二人は社員食堂へ案内され、軽食を取りコーヒーを飲むと山本と別れた。別れ際(ぎわ)に山本が呟いた言葉が帰り道で直助の脳裡に甦った。
━ 最先端の精密機器を商う我が社で、こんなことが起こるとは… ━
直助には山本の呟きの意味が十分、分かった。文明の最先端技術を商う和田倉商事で、こんな不可解極まりない非科学的な出来事が起ころうとは…という当然の感情なのだ。しかし直助には、そんなことはどうでもよかった。早智子の現在の状況さえ判明すれば、すべてが解決するように思えた。