「おはようございます、社長! なにかご用でしたか?」
声をかけたのは課員の平橋羊一だった。
「お前、なに言ってる!」
小馬鹿にされたようで篠口は少し、むかついた。
「なにって言われましても…」
平橋は、それ以上は恐れ多くて言えない・・という顔つきで自席へ戻った。篠口にしてみれば、なにがなんだか理解できない。おっつけ、工藤も出勤してくるだろうから、それで事情が判明するだろう…と思え、篠口は不満ながらも課長席へは座らずUターンして課を出た。
篠口がドアを閉じたとき、通路の向こうから係長の工藤が近づいてきた。
「おお! 工藤か。お前に」
篠口がそこまで言おうとしたとき、工藤が話を切った。
「いや! 私から訊(き)きたいくらいですよ、課長」
「だよな! 俺は課長だよ。そうだろ?!」
「そのはずなんですが…。私は受付で『専務、おはようございます』と女子社員2名に挨拶されまして…」
工藤は不安げに小さく言った。
「俺は社長って、今し方、平林に言われたぞ」
「課長は社長ですか…」
「どうも状況が変わってないのは、私と君だけみたいだな」
「ええ…。さあ、どうします?」
「とりあえず、皆に合わすしかないだろう。すべては、それからだ」
「はい! じゃあ、課長は社長室へ行かれるんですね?」
「ああ。君は専務室へな」
「はい、分かりました!」
二人はエレベーターへ向かった。専務室と社長室は数階上だった。
「待てよ…。おい! だとすれば、社長や専務はどこへ行くんだ、工藤?!」
エレベーターが上昇するなか、急に篠口が口走った。