水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

不条理のアクシデント 第八十七話  苺[いちご]パック捜査本部

2014年06月04日 00時00分00秒 | #小説

  土曜、下川は買物に出て苺(いちご)パックを買った。一日 経(た)った月曜の昼、下川は食べよう…と思い、ウキウキした気分で冷蔵庫を開けた。だが、買ったはずの苺パックは、忽然(こつぜん)と消えていた。ただちに苺パック捜査本部が下川を捜査本部長として下川邸に設置された。
 下川の朧気(おぼろげ)な記憶では、確かに冷蔵庫へ収納したはずだった。下川は買ったレシートを残していた。日付は新しく、すぐその日のレシートは見つかった。下川は確認した。レシートには日曜付で[453932K イチゴ ¥297C]と印字されていた。下川は間違いなく買ったんだ! と、その事実を確認した。その途端、楽しみにしていた苺が…と、下川のテンションは一気に急落した。犯人は誰だ?! もちろん、引ったくりやスリ取られた類(たぐい)の犯罪でないことは推測できた。
『いや、待てよ! 慌(あわ)てて落とした可能性もあるぞ…』
 ふと、下川はそのときの状況を想い起こした。買った籠の中のものは袋へすべて入れた…車の助手席へ袋を入れた…とすれば、あとは車の中か? と下川は巡った。ともかく、車の中を調べてみよう…と、下川は車の助手席を調べた。だが、車の中にはなかった。事件は迷宮入りの様相を帯びてきていた。このまま発見されなければ時効が成立するぞ! いや、苺が腐(くさ)るぞ! と思えた。捜査員一名、班長一名、本部長一名、計一名…そう思いながら下川はウトウト…と眠ってしまった。
 ふと、気づけば、数十分は眠っていた。もう、どうでもいいや…と、下川は捨て鉢になった。苺パック捜査本部は解決を見ないまま時効を迎え、解散した。

                                   完


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