いつも他人から浮いている二郎という男がいた。二郎自身は、一度も他人がいる場で浮くようなことはしていない…と思っていた。それが、ことごとく浮いてしまうのだった。人々は、またあいつが来たぞ…と、いつの間にか二郎を避けるようになった。和んでいた場が彼が入ることによって、一瞬のうちに氷のように冷たく沈滞してしまうからだった。誰となく二郎をアウトと呼ぶようになっていた。
「あっ! アウトか…。じゃあ、話の続きはメールする」
「分かった…」
二郎がテラスのベンチへ近づくと、それまでベンチで話していた二人はすぐ立ち上がって去っていった。毎度のことだから、二郎は腹立たしくはなかった。いや、返って清々していた。誰かがいて、自分に嫌な顔をされることもないからだった。嫌な顔をされ、それを見るのは流石(さすが)に二郎も嫌だった。
二郎は自分がアウトと呼ばれていることを知っていた。アウトか…なかなか、いい響きだ。少しかっこいいしな・・くらいにしか二郎は思っていなかった。しかし、自分が加わると、なぜ浮いてしまうのかは二郎に分からなかった。実は、二郎には隠された秘密があったのである。彼の実態は宇宙人だった。生まれたのは未知の∞星だが、∞星の滅亡前に家族とこの地球へ移り住んだ経緯があった。家族はそのことを二郎には知らせず育てた。家族が亡くなった今、そのことは誰も知っていなかった。二郎自身も知らないのだから、当然といえば当然だった。その∞星人は特殊な磁波を放出し、それが地球人をネガティブ思考へと変化させた。二郎自身の出来の問題ではなく生理的な問題だった。
ある夜、二郎はついにこの星と別れるときがやってきた。∞星滅亡の危機が去り、迎えがやってきたのだった。寝入っていた二郎は死んだはずの家族に肩を揺すられ、目覚めた。
「起きなさい、二郎。そろそろ出発ですよ」
「… … ええっ!?」
二郎は絶句した。目を開けると、目の前に死んだはずの母がいた。
「あなたが驚くのは当然です。私達は∞星人なのです。死んだのではなく、一人ずつ星の再建に帰っていたのですよ。今夜は、最後のあなたを迎えに来ました」
何も知らされず育った二郎には、俄かにその話が信じられなかった。すべてが夢の中だと思えた。
「もう、この星で嫌な思いはしなくて済むんだ、二郎!」
父がそういい、祖父や母も頷(うなず)いた。夢の中なら従うしかないか…と二郎は思った。二郎は起き上がり、皆が歩く方向に続いた。
次の日の朝、二郎は∞星で目覚めた。家族全員がいた。
「ここが、∞星?」
「なに言ってんの!」
台所に立つ母は、笑って二郎にそう返した。そういや、建物もちっとも変っていない。夢だったんだ…と、二郎は思った。父も祖父も揃(そろ)い、家族の朝食が始まった。二郎は夢の話は黙っていようと思った。二郎がいつものように職場へ出勤すると、皆がやさしく話しかけてきた。二郎は、もはやアウトではなかった。やはり、ここは∞星だった。
完