昨夜の夢は最悪だった…と優太は思った。眠ったのが深夜帯だったせいもあった。
いつやら、正月前に友達から聞いた話で、元旦の夜、寝る前に枕の下へ七福神の絵が描かれた紙を忍ばせておけば、素晴らしいラッキーな初夢が見られる・・ということで、勇太は不審に思いながら、試してみた。結果、残念ながらその夜、夢は見なかった…と優太は、その一件を思いだした。素晴らしい夢も悪夢も見なかったのだから、この一年は、まあ中吉ぐらいの運勢なんだろうな…と、勇太は軽く考えていた。それが甘かった。次の日に見た夢が最悪だった。それが昨夜の正月三日である。優太は意固地になった。こうなりゃ、なにがなんでも素晴らしい夢を見てやる! と、勇太は意気込んだ。とはいえ、夢というものは、そう意気込んで見れるものではない。形のない無形の心象風景だからな…と、勇太は小難しく考えた。まあ、焦ることはない。眠りを妨(さまた)げる寝相(ねぞう)とか、眠れない状況とかで悪夢を見る場合がある・・とは、優太がいつか得た知識だった。よしっ! 努力だ! まず快適に眠ろう…と優太は益々、意気込んだ。ひとっ風呂浴び、早めに寝た。結果、残念ながらその夜も夢は見なかった。優太は次第に夢を見ることがトラウマになっていった。それが昂(こう)じたある夜、悪夢を見た。地獄の閻魔(えんま)さまが針の山の頂上に筵(むしろ)を敷いてどっかりと座り、鬼達に『少々、痛いぞよっ! もう少し厚目の筵はないのかっ!』と、赤ら顔でどやしつけていた。優太はどういう訳か雲の絨毯(じゅうたん)の上からその光景を眺(なが)めている・・という悪夢だった。なんと、その光景の怖(おそ)ろしいことといったら…筆舌に現わせないもの凄い悪夢だった。同じ夢を数日見続けた。優太は、もう夢のことは忘れようと思った。このままではメンタル面で駄目になる・・と思えたのだ。どういう訳か、その夜から夢をみなくなった。
一年が巡り、翌年の正月になった。優太は夢のことが気にならなくなっていた。二日の朝、優太は素晴らしい初夢を見た。七福神達が乗った宝船に、優太が乗せてもらっている夢だった。
完