水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

驚くユーモア短編集 (40)不意

2024年01月01日 00時00分00秒 | #小説

 不意を衝(つ)かれれば誰だって驚く。人によって大小の差こそあるだろうが、驚くことに変わりはない。驚かない人は恐らく、この世の様子を見に来られた神様か仏様に違いない。^^
 とある鉄道の駅構内である。ホームを動き出した列車に、ウトウトしていた法螺(ほら)は驚いて目覚めた。
『次は鴨志田です。目玉線にお乗りの方は乗り換えとなります…』
 馴れた名調子のアナウンスが車内に流れた。法螺は目玉線の羽牟(はむ)で降りるつもりだったから、眠ってしまったか…と背筋を伸ばし、鞄を手にした。次の鴨志田で降りねばならないからだ。そのとき、不意に前の立った乗客に声をかけられた。
「法螺さんじゃないですか、お元気で…」
「…はあ」
 法螺は見覚えの人物ではなかったから、不意に話しかけられて言葉を濁した。
「私ですよ、一年ほど前にお会いした…」
「…あっ! 本当(ほんとう)さんでしたか。その節はお世話になりました…」
 本当は法螺の通っていた料理学校の講師だった。料理の苦手な法螺が、なんとか一人前の料理を作れるようになったのは、本当のお蔭だった。
「いやいや、私も仕事ですから…。で、今日は?」
「いや、ちょっとした野暮用で羽牟まで…」
 そこまで法螺が話したとき、話を中断するように列車のアナウンスがふたたび流れた。
『まもなく鴨志田です。目玉線にお乗りの方は乗り換えとなります…』
 法螺は次で降りる…と心構えしていたから、驚くことなく席を立ち、本当に席を譲った。そのとき、列車は信号待ちで急停車した。法螺は不意の停車でフラつき、思わず吊革(つりかわ)を手にして驚くことになった。
 不意の場合でも内容によって、その驚く頻度(ひんど)は異なるようです。^^

                   完


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