台風に驚かされることはいろいろとあるが、中でも、無風で曇っていた天候が突然、崩れ、暴風雨に見舞われるのには驚く他はない。風も弱く、雨もそんな強くないな…などと侮(あなど)っては後々、偉い目に遭うから、注意が必要だ。
二人のご隠居が敬老の日のごちそうを食べながら居間で将棋を指している。
「大型で猛烈な台風だそうですが、そんな強い風も吹きませんな…」
「さようで…雨も降りませんな。まあ荒れないに越したことはないんですがな…」
そのとき突然、突風が吹き始め、激しい雨も降り出した。
「やはり、台風ですな…大手っ!!」
「うっ!! そう来ましたか、台風は…。では私は、これでっ!!」
大手をかけられたご隠居は、一瞬、たじろいで驚く素振りを見せたが、その直後、かけたご隠居に逆大手をかけ、盤上に持ち駒の飛車を打ち据えた。これが詰めろの妙手で、大手をかけたご隠居は逆に負けとなった。そのとき、台風の暴風雨は突如として止(や)み、空から青空が覗(のぞ)き始めた。この天候の変化には、二人とも驚く他はなかった。
台風はひょっとすると、私達の暮らしぶりを上空から垣間見ているのかも知れません。余り悪さをしないと、驚くように軽く通り過ぎるようですよ。^^
完