水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

驚くユーモア短編集 (61)人柄(ひとがら)

2024年01月22日 00時00分00秒 | #小説

 えっ!? あの人が…と思えるような人の豹変ぶりに驚くことが時々ある。穏やかな人だと思っていた人が突然、激しく怒るような姿に接したとき、人は神でも仏でもないんだ…と思う訳だ。事実、私だって怒るときには激しく怒ることがある。ただ、年老いたからか、その勢いは若いときほどではない。そこに老いを感じて驚き、テンションを自ら下げる訳だ。^^
 とある町役場である。
「おいっ! 課長の禿村(はげむら)さんが怒ってるぞっ!」
「ああ…」
 課の前の通路を偶然、通りかかった別の課の二人の職員がチラ見しながら足早に立ち去った。
 管財課の課長、禿村は人柄がいい温厚な人として役場の全員から慕われていた。その禿村が今日に限って激高していたのである。怒られていたのは同じ課の増毛(ますげ)だった。
「今日は返すって言ってたじゃないかっ!! 家内になんて説明すりゃいいんだっ!!」
「すみません…」
「すみませんで済みゃ、神や仏はいらんよっ!!」
 禿村が怒っていたのは、妻の預金通帳から勝手に金を引き出し、増毛に融通していたからだった。禿村の妻は婦人会の一泊旅行で前日はいなかったが、今日は帰ってくることになっていた。妻に頭が上がらない禿村が激高するのも道理だったが、もう運に頼る他はなかった。妻が預金通帳に目を通すのは日課だった。その癖(くせ)をご主人が知っているのは当然と言えば当然だった。
「はぁ…。明日にはお返しいたしますので…」
 そう言われれば、流石にこれ以上は怒れない人柄の禿村だった。
 驚くような人柄とは違う行動や言動があったとしても、最後にはやはり人柄が現れるようです。^^

                   完


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