水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

驚くユーモア短編集 (57)植物

2024年01月18日 00時00分00秒 | #小説

 植物は人知れず緩慢(かんまん)[スロー]に動いている。知らないうちに飛んできた種が芽を出していて、驚くことがある。植物の生命力の逞(たくま)しさに驚く瞬間だ。最たる例が雑草である。除草したはずが一週間後には、また同じ程度に生えている。ただただ、この現実には驚く以外にない。^^
 とあるご隠居が、心配そうに盆栽鉢に植えられた竹の寄せ植えを見ている。鉢の竹の寄せ植えは元気なく、勢いがない。そこへ、茶飲み友達で顔見知りのご隠居がひょっこりと裏の垣根から顔を出した。
「…植え替えた方がいいですぞ、その鉢…。まだ、間に合います。なんなら私がやって差し上げますが…」
「ああこれは、お隣の…。ひとつ、よろしくお願いします」
 お隣のご隠居は垣根の戸から入り、ゴチャゴチャと手作業をし始めた。
「やはり、水はけが悪くなっとります。このままですと根腐れ致しますな…」
 そう言いながらお隣のご隠居はハサミを借り、伸びすぎた根を手際よく切り詰めたあと、寄せ植えを水で洗い、用土を新しくして植え替えた。恰(あたか)もプロ並みの手際よさに、ご隠居は驚くばかりだった。
「植物は語りませんからな。私らが注意してやらないと、悪くして驚くことになります」
「はい…」
 お隣のご隠居の言葉に、その家のご隠居は、ただただ聞く人になった。
 植物は語りませんから、驚くことが起こらないようお世話しましょう。^^

                   完


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