水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

驚くユーモア短編集 (42)骨董(こっとう)

2024年01月03日 00時00分00秒 | #小説

 何度か登場して戴いた骨董(こっとう)屋の店先である。
「これはこれは、いつぞやの…」
 暖簾(のれん)を上げようと表戸を店主が開けたときである。朝早くから店の前で待っていた客に店主は気づき、声をかけた。
「朝早くから、どうも…。いやなに、この前、テレビで話しておられた一件が気になりまして…」
「ああ、この前の放送、見て下さったですかな。お恥ずかしい話ですが、不調法にも気づきませんでしたあの掛け軸、国のお買い上げになりましてな。それからというもの、取材やら何やらで、よくマスコミの方がお見えになるようになりました。その中の出演依頼のお話でテレビに出たようなことで…」
「そうでしたか…。で、この前のような品は?」
「ははは…あれは奇跡ですな。業者から買い取りました安掛け軸の中に、たまたま紛(まぎ)れ込んでおったというだけの話でございます」
「猿翁寒山(えんおうかんざん)の真筆(しんぴつ)でしたな、確か…」
「へえ、さようで…」
「買い取られた他の安掛け軸、まとめて私が買い取らせてもらえませんかな?」
「はあ、それはよろしゅうございますが、どれも数千円程度の代物(しろもの)ばかりでございますが…」
「結構です。一幅(いっぷく)、十万円で…」
「ええっ!! 一幅、十万円っ! 十幅はございますが…」
「はあ、それで結構です」
 そう言うと、客は¥100万の札束を肩にかけたショルダーバッグから出し、店主に手渡した。
「今、包みますんで…」
 客は骨董の中に驚くような値打ちものがあるに違いない…と踏んだのである。だが、真実は店主の言ったように猿翁寒山の真筆は紛れ込んでいた一幅のみで、あとの掛け軸は紛(まが)い物ばかりだった。
 驚くような骨董が出たとしてもそれは宝くじのようなもので、同じような値打ちものがその店から出るとは限らない・・というお話でした。^^

 ※ 猿翁寒山は、筆者が創作した絵師です。^^

                   完


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